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(DVD。もちろんブルーレイもあり。)
金曜日の夜に日テレで放映されて録画しといた『かぐや姫の物語』(高畑勲監督、2013年)を観ました。何を言いたい物語なのか、私にはよく分かりませんでしたが、「封建社会における女性に対する抑圧を批判的に描写している」的なシーンが多く、その点は気になりました。これ、悪質なセクハラじゃん、と登場人物たちに対して思わずムカつき、かぐや姫がかわいそうになった場面もありました。
かぐや姫が月に帰るラストシーンで、ラテンな明るい音楽とともに月からやって来たのが、どーみてもお釈迦様御一行で、天人たちが迎えにきたというより、まさに阿弥陀如来来迎図でした。月に帰るってのは、つまりは死ぬことなんかいな。
で、脳内でリンクしたのが、まずは王進監督『五人少女天国行(原題:出嫁女)』(中国・香港合作、1990年)。
(現在は廃盤になっている模様。ので画像のみ。レンタルビデオ店にはあると思います。図書館でも置いてるとこがあるかも。)
だいぶ前の映画だからネタバレいいでしょ。解放前の中国の田舎が舞台で、そこで現地の少女5人が集団自殺する話です。理由は、このまま生きていても、女であるかぎり幸せになれない、という絶対的な運命を彼女たちは悟ってしまったから。
この世にいて、彼女たちの祖母や母のような辛い一生を送るよりは、死んであの世に行ったほうが幸せ。彼女たちに悲愴感はなく、むしろ嬉々として自殺の準備にいそしみます。自分たちの首を吊るためにとびきり美しい布を用意して、「その日」を楽しみに待ちます。
この映画の原作は中国の作家、葉蔚林(1933-2006)の小説「五個女子和一根縄子」です。原作の邦訳は出ていまして、中野美代子・武田雅哉編訳『中国怪談集』(河出文庫、1992)に収録されており、「五人の娘と一本の縄」という原題を直訳した題名が付けられています。ただし、この『中国怪談集』も現在は絶版になっているようです。(これは良い本なんだがね、いろんな意味で…。)
この映画と原作である小説のストーリーは極めて悲惨なんですが、『かぐや姫の物語』とけっこう相通ずるところがあるんじゃないかな、と思います。
で、ついでに思い出したのがこれ。
(これも現在は絶版?ぽい?すごい面白いのに。)
短編集で、ズバリ「かぐや姫」という作品があります。なにせあの花輪和一の作品なんで絵も話もアレなんですが、花輪和一の描くかぐや姫も、汚い人間の世界に絶望し、自ら望んで空に消えてしまいます。スタジオジブリ製作で美しい絵面の映画『かぐや姫の物語』と、実はいちばん近いんじゃないっかっていう。てかほぼおんなじ?
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(『遠野物語』は現在いろんな出版社から出ているようですが、『遠野物語拾遺』が付載されているこちらがおすすめ。昔の新潮文庫版『遠野物語』には『拾遺』が付いていたのに、現在の版には付いてない。なぜ?)
(文庫版、全12巻。精装版のほうは公立の図書館にほとんど置いてあります。)
ヤフーのニュースに「 NHKも取り上げた被災地の“心霊体験”はまだ終わっていなかった 」というのがあって、読んだ後すぐに脳内で『遠野物語』と『現代民話考』第3巻「偽汽車・船・自動車の笑いと怪談」にリンクしました。
怖がって面白がるだけの不謹慎な怪談ではなく、亡くなった人々に対する切なさ、哀しみ、愛情がこもっている点で共通しています。
『遠野物語』は言わずと知れた柳田国男の代表作。遠野郷(現岩手県遠野市)に伝わっていた民話や伝説を、遠野出身者である佐々木喜善の協力によって記録・編集したもので、明治43年(1910)に出版されました。
この中に、明治29年(1896)6月の明治三陸地震によって発生した明治三陸大津波に関係する話が収録されています。土淵(現遠野市土淵町)で起こった話だということです。
土淵村の助役北川清と云ふ人の家は字火石に在り。代々の山臥にて祖父は正福院と云ひ、学者にて著作多く、村の為に尽したる人なり。
清の弟に福二と云ふ人は海岸の田ノ浜へ壻に行きたるが、先年の大海嘯(おほつなみ)に遭ひて妻と子とを失ひ、生き残りたる二人の子と共に元の屋敷の地に小屋を掛けて一年ばかりありき。
夏の初めの月夜に便所に起き出でしが、遠く離れたる所に在りて行く道も浪の打つ渚なり。霧の布きたる夜なりしが、その霧の中より男女二人の者の近よるを見れば、女は正しく亡くなりし我妻なり。
思はず其跡をつけて、遥々と船越村の方へ行く崎の洞ある所まで追ひ行き、名を呼びたるに、振返りてにこと笑ひたり。男はと見れば此も同じ里の者にて海嘯の難に死せし者なり。自分が壻に入りし以前に互に深く心を通はせたりと聞きし男なり。
今は此人と夫婦になりてありと云ふに、子供は可愛くは無いのかと云へば、女は少しく顔の色を変えて泣きたり。
死したる人と物言ふとは思はれずして、悲しく情なくなりたれば足元を見て在りし間に、男女は再び足早にそこを立ち退きて、小浦(をうら)へ行く道の山陰を廻り見えずなりたり。
追ひかけて見たりしがふと死したる者なりしと心付き、夜明まで道中に立ちて考え、朝になりて帰りたり。其後久しく煩ひたりと云へり。(『遠野物語』九九)
これは、生き残った夫と子どもたちがかわいそうとか、亡くなった妻がひどいとか、そういう話ではありません。亡くなった妻、妻の前の恋人でやはり亡くなった男、生き残った夫、それぞれにいろんな思いで過ごした日々があったのだということだと思います。切ない、哀しい、いとおしい話です。
『現代民話考』は、今年の2月28日に亡くなった松谷みよ子さんが中心となって編纂した、昭和初年から昭和末年(昭和60年くらい)にかけての話を収集したものです。話はカテゴリ別に分類され、典型的な話をまず紹介し、次に類話を並べていくという方式をとっています。
松谷みよ子氏にとって重要な語り部であった、岩崎としゑさんという女性がいました。岩崎としゑさんは奇しくも宮城県女川の人で、この『現代民話考』にも厖大な量の話を提供しています。岩崎さんの語る女川の民話を読むと、女川は、土地も海も人もなんと豊かなのだろう、と思います。
『現代民話考』[3]「偽汽車・船・自動車の笑いと怪談」のあとがきで、松谷さんはこう書いています。
「人間の悲しみは、時代を越え、地域を越えてつながりあう。海で遭難した死者への痛みは、手漕ぎ船であろうと、豪華な客船であろうと、愛する者を失った痛みとして人びとの心を打つ。自動車事故、また、さまざまな思いを残しての死、そうした死者が安らかに眠ることなく手をあげてタクシーを呼びとめる。このことはおおかたの人にとって異質ではなく、よく判る、ことなのではないだろうか。」
「この巻を流れているのは、人間が人間であることの証しであり、思いやりであり、怒りであるのかもしれない。」
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金子貴俊(俳優、日本)と
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ミハイル・ククシュキン(プロテニス選手、カザフスタン)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1e/34/499a1536d5bc56025c327cfef603b648.jpg)
ククシュキンは弱そうなカオをしてるけど実はかなりつおい。ので、ククシュキンのカオだけを見て油断した(と思われる)対戦相手を返り討ちにすることもしばしばである(例:ファビオ・フォニーニ、ミハイル・ユーズニー、トミー・ロブレド、ケヴィン・アンダーソン、スタン・ワウリンカ、シモーネ・ボレッリ等。ノヴァク・ジョコヴィッチはセットを取られたことがあり、ロジャー・フェデラーも手こずった)。
金子貴俊さんといえば、NHKのドラマ『新選組血風録』の「長州の間者」で、長州藩のスパイとして新選組に入隊した深町新作役を思い出します。いつ自分の正体が露見するかと怯えている演技が印象的でした。深町のことをスパイだと確信している沖田総司(辻本祐樹さん)との心理戦も、緊張感がバリバリに張りつめていて良かったです。
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キエフ・バレエの田北志のぶさんがプロデュースするバレエ・ガラ公演「グラン・ガラ」が今年も行なわれます。今年で3回目の開催となります。今年の出演予定ダンサーもほぼ例年どおりです。相変わらずすげえ面子。
田北志のぶ(キエフ・バレエ)
マリーヤ・アラシュ(ボリショイ・バレエ)
アレクサンドル・ヴォルチコフ(ボリショイ・バレエ)
アレクサンドル・ザイツェフ(ボリショイ・バレエ)
イーゴリ・コルプ(マリインスキー劇場バレエ)
アンドレイ・エルマコフ(マリインスキー劇場バレエ)
エレーナ・エフセーエワ(マリインスキー劇場バレエ)
ブルックリン・マック(ワシントン・バレエ)
オレーサ・シャイターノワ(キエフ・バレエ)
二山治雄(2014年ローザンヌ・コンクール優勝者、大阪公演のみ)
このように、参加ダンサーの陣容と公演内容が充実しており、各パフォーマンスのレベルが非常に高いので、前2回がかなりな好評を博したのでしょう。今年の3回目は公演場所・回数が大幅に増えました。前2回は仙台と東京のみでしたが、今年の3回目は仙台、埼玉、東京、神奈川、大阪で公演が行われます。
ただ、主催者が各公演で異なるためか、公演情報が分散して一本化されていないようです。今のところ確定しているのは以下の公演だと思われます。
埼玉公演
期日:2015年7月18日(土)15:00開演
会場:川口総合文化センター リリア メインホール
チケット料金:S席6,500円、A席5,500円、B席4,000円
問合せ先:川口総合文化センター リリア・チケットセンター(048-254-9900)、コンサート・ドアーズ(03-3544-4577)
仙台公演
期日:2015年7月20日(月・祝)16:00開演
会場:東京エレクトロンホール宮城
チケット料金:S席9,000円、A席7,000円
問合せ先:河北チケットセンター(022-211-1189)
参照ウェブサイト: 河北新報社
東京公演
期日:2015年7月22日(水)19:00開演
会場:Bunkamuraオーチャードホール
チケット料金:S席11,000円、A席9,000円、B席7,000円
問合せ先: サンライズプロモーション東京 (0570-00-3337)、コンサート・ドアーズ(03-3544-4577)
神奈川公演
期日:2015年7月26日(日)16:00開演
会場:横須賀芸術劇場
チケット料金:S席6,500円、A席5,500円、B席:4,000円
問合せ先: 横須賀芸術劇場 (046-828-1602)
大阪公演
期日:2015年8月1日(土)15:00開演
会場:フェスティバルホール
チケット料金:SS席10,000円、S席8,500円、A席6,500円、B席4,500円、ボックス席12,000円、バルコニーボックス席17,000円
問合せ先: フェスティバルホール (06-6231-2221)、キョードーインフォメーション(0570-200-888)
5公演のうち、仙台公演と東京公演の公演名は「東日本大震災復興祈念チャリティ・バレエ 第3回グラン・ガラ・コンサート~私たちはひとつ!!~」、埼玉公演、神奈川公演、大阪公演の公演名は「ロシアバレエ トップダンサー達によるグラン・ガラ」となっていますが、公演内容はほぼ同じです。
予定されている演目は、
第1部
『海賊』よりメドーラとアリのグラン・パ・ド・ドゥ(オレーサ・シャイタノワ、ブルックリン・マック)
「DEUX」(エレーナ・エフセーエワ、アンドレイ・エルマコフ)
『白鳥の湖』第三幕より黒鳥のパ・ド・ドゥ(マリーヤ・アラシュ、アレクサンドル・ヴォルチコフ)
『カルメン組曲』抜粋(田北志のぶ、アレクサンドル・ザイツェフ、イーゴリ・コルプ)
第2部
『バヤデルカ』第二幕よりガムザッティとソロルのグラン・パ・ド・ドゥ(オレーサ・シャイタノワ、ブルックリン・マック)
『ロミオとジュリエット』よりバルコニーのパ・ド・ドゥ(田北志のぶ、イーゴリ・コルプ)
「Notation I‐IV」(アレクサンドル・ザイツェフ)
『愛の伝説』よりメフメヌ・バヌーとフェルハドのパ・ド・ドゥ(マリーヤ・アラシュ、アレクサンドル・ヴォルチコフ)
「瀕死の白鳥」(田北志のぶ)
『ドン・キホーテ』第三幕よりグラン・パ・ド・ドゥ(エレーナ・エフセーエワ、アンドレイ・エルマコフ)
フィナーレ「花は咲く」(全員)(←これは仙台公演と東京公演のみかもしれません)
短い作品もありますが、基本的に1演目にたっぷり時間を取ると思います(前の公演がそうだった)。グラン・パ・ド・ドゥの類は10分くらいかかるし、第1部最後の『カルメン組曲』はけっこう長めになるんじゃないでしょうか。『カルメン組曲』では、ザイツェフがドン・ホセ、イーゴリ・コルプがエスカミーリョだと思います。どの演目も楽しみだけど、やっぱり『カルメン組曲』がいちばん面白そうかな(神奈川公演の演目だけが他の公演と異なりますが、これはよく分かりません。初期段階での演目がそのまま出ているのかも?)。
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牧阿佐美バレヱ団は男性ダンサーの宝庫という印象がありまして、今回の公演を見ても、やはり同じ感想を持ちました。男性ダンサーの層がすごく厚い。普通は逆でしょう。
プロローグで妖精たちのサポートをするカバリエールたち、塚田渉さん、今勇也さん、坂爪智来さん、石田亮一さん、中家正博さん、ラグワスレン・オトゴンニャムさんはみな頼もしいサポート&リフトでした。
オーロラ姫に求婚する4人の王子は、京當侑一籠さん(フランス)、石田さん(スペイン)、中家さん(インド)、ラグワスレン・オトゴンニャムさん(ロシア)で、…前々から疑問に思っていたのですが、オトゴンニャムさんて、どちらの国の方なんでしょう?ま、どうでもいいか。踊りが良けりゃ。長身イケメンだし。あと、京當侑一籠さんはどちらの「族」の方なんでしょう?面白い名前だよね。
京當さんはなんか前よりだいぶ面変わりしたような?ローズ・アダージョでは、京當さんのフランス王子はオーロラ姫の主なサポート役でした。だけあって、パートナリングが安定していました。
第三幕の宝石の踊りは、金の精が濱田雄冴さん、銀の精が米澤真弓さん、サファイアの精が細野生さん、ダイヤモンドの精が織山万梨子さん。濱田雄冴さんは「はまだ・ゆうき」、細野生さんは「ほその・いくる」と読むそうです。「ほその・なま」じゃなかったのね。お二人とも男性です。最近の若い人の名前は、ほんと性別が分かりにくいし読み方も難しくなった。濱田さんも細野さんも見事な踊りっぷりでした。
長靴をはいた猫はラグワスレン・オトゴンニャムさん、狼は石田亮一さんだったそうです(二人ともかぶりものをしてたので顔見えず)。二人ともジャンプが高くて、脚がよく上がります。
最高だったのはブルーバードを踊った清瀧千晴さんでした。青い鳥が出てきて縦にジャンプしたとき、そのあまりな高さと滞空時間の長さに驚愕。一発目だけじゃなくて、その後の跳躍もみな高い。空中で足を打ちつけるのも細かかったです。パートナリングも頼もしい。最後に退場するとき、これまた高いダイナミックなジャンプで舞台脇に消えたのも見ごたえがありました。
日本人ダンサー・外国人ダンサーひっくるめて、あんなにすばらしい青い鳥を観たのはすっごい久しぶりです。感動しました。この公演のベスト・パフォーマンス賞。
フロリン王女を踊った中川郁さんも、清瀧さんに負けない踊りでした。動きがなめらかで安定しています。もしもうすでにそうだったらごめんね、中川さんは将来、このバレエ団で主役を踊ることになる存在なんだろうな、と思いました。
ただ、フロリン王女のヴァリエーションで、片脚は膝を緩く曲げ、爪先立ちのまま軽く飛び跳ねながら、もう片脚を前アティチュードから後アティチュードに移行する振りがなかったのが残念。たぶんウエストモーランドの改変でしょう。「難しかろうが原振付どおりに踊れ」というのがウエストモーランドの方針だという印象だったから。
全体としては、いかにも日本の民営バレエ団の公演兼発表会という感じの舞台でしたが、イギリス系直球ど真ん中の『眠れる森の美女』ですごく楽しめました。貴重で良い版を持ってます。これからもレパートリーとして大事に受け継いでいって下さい。
ただし、公演チラシみたいな薄っぺらい紙で、40数ページしかないプログラム(B5版)が1,300円はないでしょう(笑)。値段高すぎ。しかも、テリー・ウエストモーランドのプロダクション・ノートくらいしか読むとこないし。1,000円に抑えるか、もしくは内容面を充実させて下さい。
私個人の希望は、値段は1,300円でもいいし、紙質も公演チラシ並みでいいので、カラー写真のページを極力減らして、その代わりにあらすじとプロダクション・ノートの他にも読み物の記事を入れてほしいこと、出演ダンサーたち全員の略歴を載せてほしいことです。
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オーロラ姫は伊藤友季子さん。もう何年前になるのか(2007年らしい)、『ロミオとジュリエット』のジュリエット役で観ました。あのときはまだ「期待の新進プリマ」という感じじゃなかったかな?とても可憐で魅力的なジュリエットでした。
伊藤さんは小顔、華奢、手足が細くて長い、と恵まれた体型をしています。ただ、今回のオーロラでは、脚の筋力不足、全般的な技術不足が目立ちました。意地悪な見方かもしれませんが、『眠れる森の美女』では、どうしても技術に注目してしまうのです。バランスとか、爪先の動きとか、回転とか、腕の動かし方とか。
ローズ・アダージョ冒頭のアティチュードで、回る前からすでに軸脚が揺れて震えていたので、この段階で伊藤さんがオーロラをどのくらい踊れるのか、予想がついてしまったのが正直なところです。細かく書き連ねるのは控えますが、今の伊藤さんがオーロラを踊るのは無理があると思いました。バレエ団として最善のキャスティングだったとしても、かなり残念な出来でした。
伊藤さんはこの日たまたま不調だったのかもしれませんが、1年に公演がそうたくさん行なわれるわけではない状況下では、たった一つの公演が、観客にとって伊藤さんの踊りを目にすることのできる得難い機会となります。そんな大事な公演なのですから、あれが伊藤さんの本来の実力ではない、この日は運わるく不調だったからうまく踊れなかった、で済まされることではないと思います。
この日はフロリモンド王子役として、デニス・マトヴィエンコがゲスト出演しました。マトヴィエンコは長年のあいだフリーランスのバレエ・ダンサーとして、東西の一流バレエ団に客演してきた、かなり珍しい存在です。日本でも、新国立劇場バレエ団のシーズン・ゲスト・プリンシパルでしたから、何かと目にする機会が多かったダンサーです。
それだけに、ロシア・バレエだけでなく、マクミランなども踊りこなす器用なダンサーですが、ある公演では踊りに精彩がなく地味だったかと思うと、別の公演では爆発したかのように、凄まじい迫力に満ちた壮絶な踊りをしてみせたりと、公演によって大きく波がある印象を持っています。
マトヴィエンコが「踊りに精彩がなく地味」になってしまいがちなのは、考えてみれば当たり前なんですが、普段踊り慣れていない動きの踊りを踊るときです。この日のマトヴィエンコがそうでした。マトヴィエンコ基準でいうと、この日の踊りは普通か、もしくは不調といえるレベルだったと思います。もっとも、第二幕までは無難にこなしていました。
おそらく踊り慣れないのが原因で、マトヴィエンコの踊りに崩れがみられたのが第三幕です。グラン・パ・ド・ドゥのヴァリエーションの最後、ジャンプをしながらの舞台一周でスタミナ切れを起こし、キメのポーズで足元がグラつくデニス・マトヴィエンコなんてめったに見られません(「くそっ」という顔で辛うじて踏みとどまり、ふうっ、と息をついた表情がほほえましかったけど)。
ロシア・バレエ定番の演目である『眠れる森の美女』ですから、マトヴィエンコにとっては楽勝のようにみえます。が、同じ『眠れる森の美女』でも、こっちはロシア系とはマイムも振付も違う点が多いイギリス系の『眠れる森の美女』です。ロシア系では削除されている一連のクラシック・マイムはよくこなしていました。しかし、東西で振付が大いに異なる第三幕のグラン・パ・ド・ドゥのアダージョで問題が発生。
イギリス系のアダージョでは、途中で王子が逆さまになったオーロラ姫を片手のみで支えて静止する振りが3回あります。3回目ではそのままの姿勢で少し長くキープしなくてはいけません。そして最後は両手放しリフトのあの有名なポースで終わります。
「片手リフト静止3回」でのマトヴィエンコのサポートとリフトは惨憺たる出来でした。もたもた、ガタガタ、グラグラ。オーロラ姫役の伊藤さんとのタイミングが合わなかったといった問題もあったかもしれませんが、やはりマトヴィエンコのほうが責任が大きいと思います。タフで難しいリフトであることは最初から分かりきってるんですから、もっと練習した上でがっちりと決めてほしかったです。
ひょっとしたら、マトヴィエンコが直後のヴァリエーションで息切れしてしまったのは、このアダージョの影響かもしれません。
そして、コーダの最後、オーロラ姫が回転しながら、両腕を横に広げてから頭上に丸く伸ばす振りが数回くり返されます。オーロラ姫役の絶妙な腕の動きの変化と、王子役のタイミング良いサポートが見どころなんですが、この振りもすべてうまくいきませんでした。これはマトヴィエンコと伊藤さんの両方に責任があると思います。伊藤さんの腕の形を変えながらの回転が不安定だった、マトヴィエンコが伊藤さんの動きに合わせて、適切なタイミングでサポートできなかったせいでしょう。
このように悪口ばかり書きましたが、第三幕の最後、全員揃ってのマズルカが終わった瞬間に、客席から女の子のかわいらしい声で「ぶらぼー!」という声が響きました。観客も笑いましたし、それを聞いたマトヴィエンコと伊藤さんは、思わず素の顔に戻ってにっこりと笑ってしまいました。そのマトヴィエンコの笑顔を見たら、やっぱりマトヴィエンコは憎めない兄ちゃんだなあ、と思いました。なぜか許せちゃうんです。たまにこうして雑なやっつけ仕事をやらかしても、根はイイ人だからなんだろうね。
リラの精は久保茉莉恵さん。キャスト表によれば、リラの精は「知恵」の象徴のようです。プロローグでのヴァリエーションは、果敢にも原振付どおりに踊りました。最後のアラベスクでのターン→パンシェ→ピルエットの連続技は難度がめちゃくちゃ高いです。おそらく『ラ・バヤデール』第三幕のヴェールの踊りでの、アラベスクのターン→ピルエットの連続技に匹敵すると思います。
難度が高すぎるためか、振付を変えて踊るバレリーナもいます。一方、久保さんは原振付どおりに踊りきりました。すばらしい姿勢です。久保さんに対する拍手はもっと大きくてしかるべきだったと思う。同じように、ローズ・アダージョで、これまたイギリス系特有のザ・拷問技「自力アラベスク→パンシェ」連続をしっかりやった伊藤友季子さんも尊敬。
原振付を変えた踊りを見たとき、私には「うんうん、そのほうが全然いいよ」と納得できる場合と、「難しいからって逃げに走りやがったな」とムカつく場合とがあります。違いが生じる基準は何なのか自分でも分かりません。今度「傾向と対策」を分析してみよう(大学受験真っ最中のみなさん、体に気をつけて頑張ってね。大丈夫、きっとサクラは咲くよ)。
カラボスはなつかしや、保坂アントン慶さん(素顔はハンサムなおぢさまである)。今回は真っ赤なドレスに派手な化粧で、憎々しい悪役カラボスを好演。映画『ステージ・ビューティ』の主人公、女形のキナストンに似てる。(『ステージ・ビューティ』は日本未公開らしいんだけど、ジェンダー物としても考えさせられるし、17世紀のイギリス演劇の情況が知られる上でも興味深いし、チャールズ2世役のルパート・エヴェレットの怪演が超笑えるし、おすすめです。)
(その3に続く。次で終わり。)
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演出・改訂振付が英国ロイヤル・バレエ団出身のテリー・ウエストモーランドだと読んで、急に思い立って観に行きました。もちろんマイム目当てです。イギリス系の『眠れる森の美女』ならマイムが残されているはず。
牧阿佐美バレヱ団『眠れる森の美女』プロローグ付き全三幕(2015年2月28日於ゆうぽうとホール)
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
脚本:マリウス・プティパ、イワン・フセボロージスキー
原振付:マリウス・プティパ
演出・改訂振付:テリー・ウエストモーランド
美術:ロビン・フレーザー・ペイ
指揮:デヴィッド・ガルフォース
演奏:東京ニューシティ管弦楽団
主なキャスト
オーロラ姫:伊藤友季子
フロリモンド王子:デニス・マトヴィエンコ
リラの精(知恵):久保茉莉恵
カラボス:保坂アントン慶
フロレスタン王:逸見智彦
王妃:吉岡まな美
カタラブット(式典長):依田俊之
水晶の泉の精(美):笠井裕子
魅惑の庭の精(強さ):日高有梨
森の聖地の精(優雅):三宅里奈
歌い鳥の精(雄弁):米澤真弓
黄金の葡萄の木の精(活気):高橋万由梨
カバリエール(騎士たち):塚田渉、今勇也、坂爪智来、石田亮一、中家正博、ラグワスレン・オトゴンニャム
フランスの王子:京當侑一籠
スペインの王子:石田亮一
インドの王子:中家正博
ロシアの王子:ラグワスレン・オトゴンニャム
ギャリソン(フロリモンド王子の副官):鈴木真央
公爵夫人:田切眞純美
金の精:濱田雄冴
銀の精:米澤真弓
サファイアの精:細野生
ダイヤモンドの精:織山万梨子
白猫:茂田絵美子
長靴をはいた猫:ラグワスレン・オトゴンニャム
フロリン王女:中川郁
ブルーバード:清瀧千晴
赤ずきん:阿部千尋
狼:石田亮一
さすが『眠れる森の美女』、主だったキャストを書くだけで疲労困憊するわ。長年のあいだ謎だった、リラの精をはじめとする妖精たちが現れる意味がようやく分かったよ。招かれた妖精たちが知恵、美、強さ、優雅さ、雄弁さ、活気をオーロラ姫に贈る、ってことだったのね。キャスト表にこうやって書いてくれたおかげで、疑問が氷解してとても勉強になりました。
となると、疑問なのはカラボス。もしカラボスが最初から招待されていたなら、カラボスはオーロラ姫に何を贈っていたのだろう?式典長のカタラブットは意図的にカラボスを招待リストから外したのではなく、うっかりカラボスの名を加え忘れてしまったんでしょ。てことは、本来ならカラボスは招かれるはずだったということになる。
カラボスは招待されなかった怒りで、オーロラ姫に死の呪いをかけたんであって、きちんと招待されていたなら、何をプレゼントするつもりだったのかな。邪悪さ、なわけないよな。何だろう。面白いね。
テリー・ウエストモーランドによる構成と演出は非常にしっかりしています。今まで観た『眠れる森の美女』の版の中では、最もよくできていると個人的に思いました。マイムのほうは、プロローグで怒り狂うカラボスを妖精たちがなだめるマイムと、カラボスが妖精たちの真似をしながら追い払うマイムがありませんでした。それ以外のマイムはすべてありました。
たとえば、プロローグでカラボスが去ったのち、フロレスタン王が「針のようなものを宮廷に持ち込むことはせぬ」と言います。するとリラの精が「私が(大事なときには)現れるでしょう」というマイム(両腕で下からゆっくりと持ち上げるような動き)で答えていました。
また第一幕、王宮の庭内で刺繍をしていた女たちに対して、フロレスタン王が死刑を言い渡すと、王妃が「彼女たちを死刑にするなんていけません。どうか許してあげて下さい」というマイムを踊りながらやります。
同じく第一幕で、指先を針で傷つけてオーロラ姫が倒れてしまうと、カラボスがマントを脱いで「思い出しなさい、私が言ったことを。姫が指先を針で傷つけたら死ぬ、と」というマイムをして高笑いをします。カラボスが姿を消した後、今度はリラの精が現れて、「思い出しなさい、私が言ったことを。姫が指先を針で傷つけたら眠るのだ、と」というマイムをしてみなを安心させます。
第二幕、フロリモンド王子御一行が狩猟にやって来た場面でも、公爵夫人が王子に「悲しげなご様子ですが、どうなさったのですか」と尋ねます。「悲しい」は「泣く」マイムを使って表現されています。王子は「私が悲しいなんて、そんなことはありません」と否定します。王子が一人になった後、リラの精と王子が同じマイムで会話するのも、他のイギリス系統の『眠れる森の美女』と同じです。
このように、ウエストモーランドは、英国ロイヤル・バレエ団の『眠れる森の美女』に残っているマイムをすべて保存し(追加したものもあったと思います)、完全にセリフとしてマイムを使用しています。予想以上にマイムがてんこもりでした。といっても難解で新しいマイムなんぞは用いていません。劇中で使われている同じマイムをくり返すだけです。それでも、物語の流れに唐突感がなくなり、自然で分かりやすくなっていました。
第二幕で、オーロラ姫は目覚めた後に王子とパ・ド・ドゥを踊ります。音楽は間奏曲としても演奏されているものでした。去年の秋、新国立劇場バレエ団がウェイン・イーグリング改訂演出・振付『眠れる森の美女』を上演しました。イーグリング、なーにが「オーロラ姫が目覚めていきなり王子と結婚するのは唐突で不自然だから、二人の愛のパ・ド・ドゥを創作した」だよ。ウエストモーランドがとっくにやってたんじゃねえか。
イーグリング版は、オーロラ姫が目覚める瞬間の明るい華やかな音楽を削除ちゃっていました。おかげでユーリー・グリゴローヴィチ版『白鳥の湖』のラスト・シーン並みに、客のフラストレーションがたまりまくり。パ・ド・ドゥもプティパ風というよりマクミラン風。一方ウエストモーランドは、目覚めの音楽をちゃんと残してあります。間奏曲を使ったパ・ド・ドゥもプティパ風の振付でした。
ロビン・フレーザー・ペイのデザインによる装置と衣装は、衣裳はまあこんなもんかな、という感じでした。スタンダード。第二幕に出てくる妖精たちのチュチュはスカートが長いものでした。なんとなく古き良き英国ロイヤル・バレエを思い起こさせます。新国の真緑な葉っぱチュチュよりも趣きがあります。
しかーし!圧倒的だったのは、第二幕で、リラの精がフロリモンド王子を伴い、オーロラ姫の許へと旅するシーンでのゴンドラ!あれは新国立劇場バレエ団が使ってたゴンドラよりもすごかった!
この牧阿佐美バレヱ団『眠れる森の美女』のゴンドラも重厚な両面造りで電動式。ゴンドラはまず舞台奥を右から左に横断した。私はてっきりこの左右横断で終わりだろうと思った。ところが、ゴンドラは方向を転換して、今度は舞台中ほどを左から右に横断したではないか!更に、また方向転換して、舞台前面を右から左に横断し、そして脇に消えていった。つまり、白鳥のコール・ドよろしく、ゴンドラがS字走行をしたのだ。舞台をいっぱいに使って。いやー、ド迫力だった。すごい。
(続く)
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