鬼平や竹鶴~私のお気に入り~

60代前半のオヤジがお気に入りを書いています。

お気に入りその2205~ハキリアリ

2023-03-07 12:51:04 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、ハキリアリです。

篠原かをりさんの「サバイブ」で一番興味深かったハキリアリについてもっと知りたくなり、選んだのが今回ご紹介する「ハキリアリ 農業を営む奇跡の生物」です。

内容紹介を引用します。
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テレビなどでもおなじみ、地球上で最も人間くさい振る舞いをする昆虫、ハキリアリのすべて。
切り取った葉で食用キノコを栽培し、2000部屋もある大住居を構え、体の表面で抗生物質まで作り出す。
驚くべきハキリアリの生態にピューリッツァー賞作家が迫る!
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昆虫の進化って凄すぎです。
昆虫の生態は周到にプログラミングされたロボットを思わせます。
その中でもアリやハチのような社会性昆虫は複数の個体が分業しながらあたかも一つの生命体のように振る舞いつつ、種を後世に伝えます。
それこそ正に「超個体」といわれる所以です。
そんな社会性昆虫の中でもハキリアリは社会の複雑さと規模でNo.1でしょう。
本書によると地下の大住居を建設するために彼らが掘り出した土は2mもの高さに達するのだそう。
しかも南北アメリカの熱帯・亜熱帯地域に広く生息していて、都市部でも見られるというのです。
見てみたい!
でも実際に見に行っても地下空間に広がる広大な社会を知る術はありません。
結局は本書の写真と解説で我慢するしかありません。

冒頭部分でハキリアリ以外の世界の珍しいアリもいくつか紹介されていました。
まずはグンタイアリ。
当然出てくると思っていました。
次はエゾアカヤマアリ・・・エゾ?!
すぐそこの石狩海岸に世界一のコロニーを作っているアリがいるそうです。
全然知りませんでした。
調べてみると、
・石狩川河口左岸から銭函までの13.5kmに分布
・1巣、約50㎝~1m四方が約45,000巣
・1巣あたり女王アリ24個体、働きアリ6800個体
・全体で、女王アリ108万個体、働きアリ約3億600万個体
・コロニー内では女王アリと働きアリの巣間混合が起きている
アメリカのサイエンスライターに我が地元のことを教えられるとは思いませんでした。
ただ残念ながらこれは1970年代のデータ。
その後石狩湾新港の開発により激減し、今は1/10ほどになっているそうです。
それにしてもこのスーパーコロニーの中であれば、たとえ13.5km離れたアリ同士を入れ替えても仲間として受け入れるとは、実に珍しい生態です。

ハキリアリの女王アリは10年~20年もの間、卵を産み続けますが、その元になるのは結婚旅行の時にオスアリからもらった精子です。
交尾後20年も女王アリのお腹の中で精子が保管されることに驚きました。
そして精子ひとつひとつが大切に使われることにも驚きました。
ちなみに女王アリは10年間で1億個以上もの卵を産むそうです。
これって1分間になおすと20個産む計算になります。
ちなみに女王アリの主食って何だと思いますか?
驚くことに働きアリたちが産む無精卵だそう。
働きアリが卵を産めるとは知りませんでした。
卵は完全栄養食といわれます。
毎日毎日たくさんの卵を産むためには精をつけなくならなりませんものね。

なお女王アリは結婚旅行時に複数のオスアリと交尾する例もあるそうで、その方が巣の耐病性が高くなるそうです。
同じ遺伝子だけだとひとつの病気で全滅なんてことになりかねません。
多様性は必要だと思います。

本書ではアリが葉を切ることがいかに大変なのかを知りました。
アリにとって葉を切ることはかなりの重労働で、体重の1/2が頭、頭の1/2がアゴの筋肉という特別な働きアリが担当するそう。

菌(キノコ)を守るためにアリは複数の抗生物質を分泌するそうで、菌を世話する担当のアリが一番多く分泌するそうです。
抗生物質は必要な菌の成長を促進し、他の菌を排除する役目をします。

このように高度に進化したハキリアリですが自然界には天敵がいるそうです。
ひとつは菌。
毒素を含んだ菌がはびこると、食菌が駆逐され、巣を放棄する事態に発展することがあるそうです。
もうひとつはアリ。
こんな巨大な巣を乗っ取るアリがいるそうで、卵や菌を食い尽くすとまた他の巣に移動するそうです。
凄い集団がいるものです。

本書の終盤に近づき、ハキリアリの巣の全容を写した写真が登場しました。
ハキリアリの巣にコンクリートを流し込み、掘り出して巣の全容を観察している場面を写したもので実に壮観です。
流し込んだコンクリートの量は何トンにも及ぶそうで、まったくもってとんでもない規模です。
菌を育てている部屋の容積は大小様々で、大きなものは60Lを超えるものもあるそうです。
また葉を収穫する木の近くまでトンネルを作って最短距離で移動できるようにしているというのはまあ理解できるとして、その断面サイズが高さ3~4cm、幅4cm~40cm、トンネルの長さが10m以上もあるものもあるそうです。
どれをとっても規格外のサイズに驚かされます。
これらが全て1匹の女王アリから始まったのです。
ハキリアリは女王アリから働きアリまで、それぞれが自らの役割を果たすことで、コロニー全体でひとつの超個体として成立しているのですね。

ヒトが農業を始めるはるか昔から農業をしていたハキリアリの生態は実に興味深いものでした。
訳者あとがきに、国内では多摩動物公園でハキリアリを観察することができると紹介されていました。
観に行きたいものがまたひとつ増えました。




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