鬼平や竹鶴~私のお気に入り~

60代前半のオヤジがお気に入りを書いています。

お気に入りその2351~原田マハ

2024-08-05 12:42:45 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、原田マハです。

先日、桜木紫乃の「谷から来た女」を読んだと書きました。
久しぶりに小説を読んでアートな文章って良いなと感じ、続けてもう一冊小説を読もうとストックを確認しました。
候補は2冊見つかりました。
原田マハの「板上に咲く」と河崎秋子の「清浄島」です。
アート小説の名手と迫力の道産子作家。
どちらも捨てがたいですが、今はアートを楽しみたい気分。
それなら物語自体がアーティストを扱った前者を選ぶことにしました。

主人公は棟方志功。
ゴッホを目指して油絵や版画の作品つくりを続けながらも、家族を養うためマッチのラベルつくりで日銭をかせぐことに時間を割く日々が描かれていました。
マッチのラベルを版画で作り刷って張りつける作業が1枚当たり1銭と書かれていました。
1935年当時の物価を調べると、当時の1円は今の2000円程度。
ということは1枚20円、100枚で2000円ということになります。
5人家族が食べていくには何とも心細い限りだったことでしょう。
寝る間を惜しんで必死に刷り続ける棟方の背中を想像すると、朝ドラの「ゲゲゲの女房」の水木しげるを思い出しました。
水木しげるは売れない漫画家で貧乏暮らしをしていました。
戦争で片腕を失くし、残った右腕一本で家族を支えようと必死にマンガを描き続けていました。
背中越しにGペンのガリガリという音だけが聞こえますが、歯を食いしばって描いていることがわかる辛いシーンが印象的でした。
どちらもそういう時代を乗り越えられたのは、その才能を見出す人がいたから。
棟方は民芸運動の柳、水木は少年マガジンの編集者。
本書を読みながら生きている間に才能に気づいてもらえなかった人も多いのだろうなと考えていたら、棟方が目指したゴッホがまさにそういう人でした。
ゴッホが生前は弟しか理解者がいなかったのは有名な話。
棟方も妻しか理解者がいないままで一生を終えた可能性がありました。
生きている内に「世界のムナカタ」になれて本当に良かったです。
本書には、才能を認める者からの助言でさらに才能が開花し、より素晴らしい作品が生まれることになったことが丁寧に描かれていました。
原田マハのアート小説はこれが良いです。
早く次を書いて欲しいです。










コメント
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