鬼平や竹鶴~私のお気に入り~

60代前半のオヤジがお気に入りを書いています。

お気に入りその1051~獣の奏者外伝

2015-05-05 08:35:24 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、獣の奏者外伝です。

上橋菜穂子著「獣の奏者 外伝 刹那」を読みました。

第一部は、エリンが結婚し子をなして過ごした11年間を描いています。
本編ではストーリー展開を損なうという理由で省かれた空白の11年間。
読者が一番知りたかった部分でしょう。
そして著者も描きたかった部分でしょう。
これだけ著者と読者の希望が一致する外伝は他にはないのではないかと思います。

今回シリーズを全巻セットで購入しようと思い、いろいろ探しましたが、4巻セットばかり。
外伝を含んだ5巻セットは見当たりませんでした。
外伝が本編の空白を埋める必要不可欠な存在なのになぜ?
セット販売している古書店の方はこのシリーズを読んでいないのではないかと思いました。

最強の獣王を自在に操ることができる唯一の存在、それが主人公エリン。
決して敵対勢力に渡してはならない国防の決め手として、エリンには常に国家権力の目が光ります。
エリンは自らが最強の兵器になることを命を懸けて拒んできました。
そのエリンがなぜ家族を持ち、獣王たちを自在に操る訓練をすることになったのか?
幼いころから彼女を見てきた同僚教導師でさえ首をかしげます。
その心の動きを夫イアルの視点で描いた本作は会心作だと思いました。
先ほども書きましたが、このシリーズには外伝が不可欠です。

第二部は、エサル師の若き日を描いています。
幼かったエリンを受け入れ、導き、そして常に守り通した師匠エサル。
この作品は若き日のエサルが主人公です。
貴族に生まれながらもその環境に馴染めず、男気性の猪突猛進で獣王に入れ込むエサル。
生まれ育ちは違えど、どことなくエリンに似ています。
若き日の自分によく似たエリンを娘のように思っていた心の内が知れる小品です。

第三部は、エリンの家庭内のひとコマを描いています。
息子ジェシは2歳。
何とか乳離れさせようとするエリンと、幼いながらも知恵を巡らせ乳離れしたくないジェシの微笑ましい攻防。
こんなどこの家庭にもある平和な日々が、エリンの家庭にもあったのですね。
本編読後の少し沈んだ心には救いになります。

最後に。
「守り人」シリーズが素晴らしい作品だったので、このシリーズも素晴らしいであろうことは予想していました。
けれども「獣の奏者」シリーズには前シリーズにはない意外な特徴がありました。
それは、子どもの思考、大人の思考、その両方を味わうことができる作品だということ。
子どもは主人公エリンに自分を重ねて読むことができます。
さらに大人もまた成長したエリンに自分を重ねて読むことができるのです。

このシリーズ、子どものときにも読みたかったなぁ。


コメント
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