元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち」

2021-01-23 06:59:33 | 映画の感想(さ行)
 (原題:STUNTWOMEN THE UNTOLD HOLLYWOOD STORY )映画の出来に関して述べる以前に、このような題材を取り上げてくれたことは実にありがたいと思う。ハル・ニーダム監督の「グレート・スタントマン」(78年)やリチャード・ラッシュ監督の「スタントマン」(80年)といった、映画のスタントに関わる者たちを描いた作品は過去にもあったが、スタントウーマンを中心に据えたドキュメンタリー映画はこれまでなかったと思う。その意味で、存在価値は高い。

 まず、映画の歴史はスタントの歴史でもあることが示される。映画の黎明期においても、女性のスタントマンは存在していた。彼女たちは当たり前のように、出演女優の代わりに馬から落ちたりバイクから汽車に飛び移っていたのだ。ところがこの仕事が儲かることが知れ渡ると、野郎どもがカツラをかぶってスタントをやるようになり、スタントウーマンの仕事は減っていった。



 それから長い時間が経過し、彼女たちが復権したのは60年代以降である。だが、相変わらず男女差別は残り、それは今でも尾を引いている。本作では、現役のスタントウーマンの面々や、すでに引退した往年の“名人”たちのインタビューを集め、この職業に携わる者たちの実相を浮き彫りにしていく。

 60年代に彼女たちの組合が発足するが、映画会社はまったくいい顔をしなかった。現在でもスタントウーマンは“女性なのに凄い”といった捉えられ方をされているが、本来そんな見方は間違いである。映画作りにおいて女性がスタントをやる必要性が生じれば、その業務をプロ意識を持って粛々とこなすだけだ。

 彼女たちの“役作り”は男性のそれと変わらない。基礎体力を付けるためのトレーニング、マーシャル・アーツなどの体術の会得と技量向上、そして役柄に合ったスタントのスタイルをとことん追求する。劇中では“車にひかれる場面を上手くこなすには、実際にひかれてみるのが一番だ”という恐ろしいセリフも出てくるが、それは当然のことなのだ。



 生傷は絶えないが、それでも彼女たちを仕事に突き動かすものは、映画への情熱に他ならない。インタビューを受ける彼女たちは、誰しも自信たっぷりで明るい表情を見せる。70歳過ぎて引退した伝説のスタントウーマンも、現役への未練がある。本当に、頭が下がる思いだ。エイプリル・ライトの演出は殊更才気走ったところは無いが、丁寧で好感が持てる。

 ミシェル・ロドリゲスやポール・ヴァーホーヴェンといった映画人たちが述べる、スタントウーマンへの想いも印象的。紹介される作品が過去のものばかりというのは不満が残るかもしれないが、個人的には懐かしく思った。そして、現役のスタントウーマンには意外と美人が多いのにも感心した(笑)。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« “経済を回す”というスローガ... | トップ | 「夜叉」 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

映画の感想(さ行)」カテゴリの最新記事