元・副会長のCinema Days

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「大綱引の恋」

2021-06-05 06:22:55 | 映画の感想(あ行)

 いささか古風で、観ていて妙にくすぐったいところがあるが、“ご当地映画”という性格上その土地の名物は存分に散りばめられており、メインとなる題材は面白い。そして何より2020年3月に急逝した佐々部清監督の遺作で、存在感はかなりある。各キャストの頑張りも印象的だ。

 鹿児島県薩摩川内市に住む有馬武志は、かつて東京の会社に勤めていたが、リーマンショックのあおりで会社が倒産。やむなく実家の稼業である土建業を手伝っている。ある日、母の文子が勝手に“家事退職”を宣言する。武志と父の寛志、妹の数子は面食らうばかり。一方、武志はひょんなことから甑島の診療所に勤務する韓国人研修医のジヒョンと出会い、惹かれるもの感じる。町では400年の伝統を誇る川内大綱引の準備が進められていたが、その先導役たる“一番太鼓”の人選が注目を集めていた。

 私は若い頃に鹿児島市に住んでいたことがあり、川内にも行ったことがあるのだが、恥ずかしながら川内大綱引のような大規模な祭りがあることを知らなかった。だから本作で大々的に紹介してくれたのは有り難い。実際、終盤で描かれる祭の様子はエキサイティングで盛り上がる。また、この祭に関わる地元の人たちの努力や情熱にも十分言及されている。それに、甑島の自然の風景は美しい。

 斯様に“ご当地映画”としての体裁は十分整えられているので、ドラマを必要以上に捻ったり深刻にさせる必要は無い。平易で明朗な筋書きにすれば事足りる。悪い奴や妙に屈折した人間は一人も登場せず、皆いい人で不器用な主人公をフォローしてくれる。佐々部監督はこういう作劇にはピッタリの人材だ。

 主演の三浦貴大は好演で、マジメ過ぎるあまり30歳過ぎまで結婚はおろか交際相手もいない無骨な野郎を、賑々しく表現している。ジヒョンに扮しているのは知英で、今回も実に魅力的だ。残念ながら彼女は日本を離れてしまったが、またスクリーン上で会いたいものである。比嘉愛未に石野真子、松本若菜、中村優一、西田聖志郎、朝加真由美、升毅ら他の面子も良くやっている。あと関係ないが、劇中で突然に鹿児島実業の校歌が流れたのには笑った。

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