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元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「おいしくて泣くとき」

2025-05-05 06:05:16 | 映画の感想(あ行)
 旧ジャニーズ界隈のメンバーが主演のラブストーリーということで、普段ならば絶対に鑑賞対象にならないシャシンなのだが(笑)、けっこう評判が良いので敢えてチェックしてみた。結果、何とこれは丹念に作られた佳編だということが判明し、満足して映画館を後にした。やはり、作品の“外観”だけで出来映えを判断してしまうのは禁物だという、基本的なことに思い当たった次第だ。

 地方都市の高校に通う風間心也は幼い頃に母を亡くし、加えて部活動もケガのために行き詰まり、鬱屈した気分を抱えて日々を送っていた。同じクラスの新井夕花の家庭事情は複雑で、家には居場所が無い。そんな2人が学級新聞の編集委員を任されことを切っ掛けに、勝手に“ひま部”を結成する。彼らはやがて互いを意識するようになるが、ある日突然に夕花は姿を消してしまう。それから30年が経ち、心也は思いがけず夕花の消息を知ることになる。森沢明夫による同名長編の映画化だ。



 まず、キャラクター設定が堅固であることに感心する。心也の父親は食堂を営んでいるが、同時に子ども食堂も運営している。そのため地域住民からの信頼は厚いが、同時に無理解な者たちからは偽善者呼ばわりされ、息子としても心穏やかではなられない。夕花の血の繋がらない父親は、ロクデナシの暴力野郎だ。彼女はすべてを投げ出したい気持ちを抑えつつ、幼い弟のために何とか耐えている。

 これらの描写には、若年層向けの日本映画にありがちな軽薄な部分は微塵も無く、登場人物の背景はシビアに捉えられている。そんな2人が出会い、心を通わせるプロセスには説得力があり、特に彼らが2人だけで遠出するシークエンス、それに続く厳しい顛末には観ていて胸が締め付けられた。

 横尾初喜という監督は初めて名前を聞くが、本当に演出が丁寧で危なげが無い。また、子ども食堂やDVをモチーフとして取り上げることにより、社会的メッセージをもカバーしているあたりも万全だ。夕花が行方不明になった理由は、実を言えばかなりアクロバティックで無理筋である。しかしそれがあまり不自然に見えないのも、この映画の語り口の上手さが突出しているからに他ならない。ラストシーンは圧倒的で、題名通り気持ちの良い涙を流した観客も多かっただろう。

 主演の長尾謙杜と當真あみは大健闘で、その働きぶりは観る者を惹き付ける。特に當真の演技は見上げたもので、十代の女優の中では最も期待の持てる人材だと思う。尾野真千子に美村里江、安田顕、ディーン・フジオカ、芋生悠、水沢林太郎など、他のキャストも申し分ない。山崎裕典のカメラによる透き通るような映像、上田壮一の音楽、Uruの主題歌、いずれも万全の仕上がりだ。また、心也の父親が作る焼きうどんがとても美味しそうだった。

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