元・副会長のCinema Days

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「ヤクザと憲法」

2016-02-19 06:38:00 | 映画の感想(や行)
 観る価値は十分にある注目作だ。ヤクザと人権問題に迫ったドキュメンタリー作品という触れ込みだが、それよりもヤクザを取り巻く環境、ひいては我々が住む社会の問題点をあぶり出している点が出色である。そもそもヤクザに“人権”があるのかどうかという、身も蓋も無い極論を軽く粉砕してしまうほどの重量感が、この映画にはある。

 取材対象は、大阪の指定暴力団“二代目東組”傘下にある“二代目清勇会”である。スタッフが組員達と取り交わしたルールは“取材謝礼金は支払わない”“収録テープ等を放送前に見せない”“顔のモザイクは原則しない”というもの。

 製作は戸塚ヨットスクール事件を扱った「平成ジレンマ」、四日市公害問題を扱った「青空どろぼう」など、ドキュメンタリー番組で数々の実績を上げた東海テレビだが、この一歩も引かない姿勢は評価されるべきだし、それ以上にその制約を受け入れた清勇会のスタンスが実に興味深い。つまり昨今は平気で“人権”が蹂躙される風潮がはびこり、本来アウトローであるはずの彼ら自身もそのあおりを食らって、シャレにならないほど追い詰められているということなのだ。

 ヤクザにはマトモな商取引は許されず、部屋も借りられない。ヤクザの子供は保育園から入園を断られる。山口組の顧問弁護士である山之内幸夫も登場し、組員の窮状を訴える。もちろんこれらは暴対法等による締め付けに端を発していることなのだが、では社会から爪弾きにされている彼らを受け入れるところが世の中にあるのかというと、まず存在しないのだ。

 取材先の清勇会のメンバーの中で最も印象的なのは、二十歳そこそこで入った若い組員だ。あまり人付き合いが上手には見えない彼は、おそらくは家庭にも学校にも居場所がなかったのだと思われる。劇中で彼が何か不手際をおこない、兄貴分からヤキを入れられる場面がある。鼻血を出しながら落ち込んでしまう彼だが、その後で年嵩の組員が一緒に食事を取ったりしてフォローする。カタギの世界では傷心の彼に声を掛ける者もいなかったであろうことを考えると、ヤクザ組織の方が彼にとって住み易かったりするのは何とも皮肉だ。

 ディレクターのひじ方宏史は当初定められた“事務所での取材時間は朝から夕方まで”という取り決めを守りつつも、個別の組員に対しては私生活に肉迫したアプローチを敢行して驚かされる。特に何かヤバいものを売買している現場をとらえたシークエンスは、警察沙汰一歩手前の緊張感がみなぎって圧巻だ。

 終盤で清勇会の親分が取材陣の“ヤクザを辞めるという選択肢はないのか”との質問に対して“辞めても他に行くアテなんか無い”と言い放つシーンは痛切だ。確かに反社会的集団は糾弾されても当然だが、彼らを叩くばかりでは根本的な問題は何一つ解決しないのである。はぐれ者にも行き場が用意され、社会の構成員の端くれとして生きられる世の中こそが、あるべき姿だろう。ただでさえ出口の見えない不況も相まって、一面的で例外を認めないような硬直した風潮が罷り通ってしまう昨今である。

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