元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「新選組始末記」

2016-02-20 06:30:11 | 映画の感想(さ行)
 昭和38年作品。この頃の大映によるプログラム・ピクチュアの質の高さが如実に感じられる映画だ。当時こういうレベルの作品群に観客は常時接することが出来たのだと思うと、何と映画ファンにとって良い時代だったのかと感心してしまう。

 若い浪人の山崎蒸は新選組の近藤勇に憧れ、恋人志満の反対を押し切って入隊する。だが加入したのも束の間、土方歳三が局長の芹沢鴨を暗殺する事件が勃発。近藤が次の局長の座に就くが、このクーデター騒ぎに山崎は嫌悪感を抱く。同時に土方から目の敵にされ、彼の隊の中での立場が危うくなる。



 やがて山崎は土方から罠をかけられ、粛清の対象になりそうになるが、近藤の取り計らいによって難を逃れる。そんな中、土方は捕えた勤皇浪士から尊皇派の会合が四国屋で行われることを聞き出すが、山崎が掴んだ情報では会合は池田屋で開かれるらしい。山崎の意見を無視して四国屋に全勢力を差し向けるように主張する土方だったが、近藤は山崎を信用し、斬込み隊を二手に分けることにする。かくして新選組は尊皇派との全面衝突に突入する。

 武士道の本質を求めて組に入った山崎が、次第にテロと内ゲバに走っていく周囲の状況に苦悩する様子が生々しく描かれている。まるで戦場のような池田屋事件の場面なども含め、イデオロギーに狂った人間の本質に容赦なく迫った作劇には圧倒されるばかりだ。また、単なる当時の社会情勢の暗喩といった次元を超えて、現代にも通用するインパクトをも獲得している。

 三隅研次の演出はキレが良く、弛緩したところが無い。本多省三によるカメラワークも万全で、アクション場面の段取りと殺陣の素晴らしさは言うまでもなく、存分に楽しませてくれる。山崎役は御馴染みの市川雷蔵だが、ナイーヴな青年像を上手く表現している。近藤に扮する若山富三郎、沖田総司を演じる松本錦四郎、ヒロイン役の藤村志保と、脇の面子も抜かりがない。特に土方役の天知茂は憎々しい快演で、この俳優の実力を大いに見せつけている。

 史実では新選組はやがて壊滅し、山崎も官軍との戦闘で命を落としてしまうが、歴史の大きなうねりは個々人の矜持を簡単に踏みにじっていくものだということを、改めてしみじみと思う。

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