元・副会長のCinema Days

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「獅子王たちの夏」

2017-08-20 06:29:15 | 映画の感想(さ行)
 90年東映作品。非凡な才能を持ちながら若くして世を去った脚本家兼演技者の金子正次が遺したシナリオは、自身が出演した「竜二」(83)を除いて4本ある。本作はその中の1本を映画化したものだが、何とも冴えない出来に終わってしまった。作り方が根本的に間違っているようなシャシンである。

 昔ながらの極道者になることを望んで坂上連合系列の村井組に入った勝は、打算に満ちたヤクザ社会の実態に幻滅する。ある日彼は、坂上連合と対立する大日本極真会に所属する修と出会う。彼に本物の極道の匂いを感じ取った勝は強く惹かれるが、欲得尽くで動くヤクザの世界はそんな“男気に男が惚れて”といったセンチメンタリズムを許さない。ある“事件”によって一年間獄中生活を送ることになる勝だったが、出所した彼は組の都合で立場が翻弄される。やがて対立していたはずの2つの会派は事実上瓦解し、それぞれのグループが利権を求めて暗躍する中、勝と修の立場も危うくなる。



 クレジットでは脚本担当欄に金子と並んで西岡琢也の名がある。話によると、西岡が勝手に金子のシナリオを改訂したらしい。原作は京都だが、本作では舞台が首都圏になっている。そもそも、主人公達の名前からして元ネタと異なるという。西岡は80年代にはいくつか注目すべき仕事をしたが、この映画が作られる頃はピークを過ぎていた。少なくとも、金子正次とはレベルが違う。そんな状態では、良い作品が出来るはずも無い。

 加えて、キャスティングの弱さは致命的だ。哀川翔と的場浩司が主演では、金子正次自身はもちろん、「ちょうちん」(87年)の陣内孝則にも負ける。ヒロイン役の香坂未幸には魅力が無いし、風見しんごや布川敏和、国生さゆりといった面々がスクリーンを横切る様子は、まるで(当時の)アイドルの顔見世興行である。高橋伴明の演出も、低調な脚本に引っ張られたせいか、まるで気合いが入っていない。

 金子の手による脚本のうち、「盆踊り」だけは現時点でも映画化されていない。その理由は分からないが、もしも今からでも映画にするということならば、十分に吟味して信用のおけるプロデューサーにまかせてもらいたいものだ。

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