元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「サイドカーに犬」

2007-07-05 07:11:50 | 映画の感想(さ行)

 怪しげな中古車ディーラーを営む中年男(古田新太)の愛人となった奔放な若い女に扮する竹内結子の演技が評判らしいが、私はまったく良いとは思わない。柄にもなく蓮っ葉に振る舞い、全編これ“アタシって、こういう演技もできるのよ”といった気取った雰囲気が全開である。

 でも、そんな態度とは裏腹に、これは“好演”どころか“熱演”でさえなく、言うなれば“普通の演技”だ。それが思いがけなくウケたのは、普段の彼女の仕事ぶりが“普通以下”であり、今回少しは演技力が要求される役を振られたおかげで、いつもとの“落差”が強調されたに過ぎないと思う(中年男の本妻を演じた鈴木砂羽の方が、出番が少ないにもかかわらず潔癖性で気難しい女を上手く表現していてずっと印象的だ)。それにしても、竹内をはじめとする20代後半の女優にまともな人材がごく少数しかいないのには困ったものだ。それより若い世代、特に22歳以下には多くの才能があふれているのと比べれば対照的である。

 さて、長嶋有の同名小説を映画化したのは根岸吉太郎だが、前作「雪に願うこと」や、かつての出世作「遠雷」に代表されるような、気ままに生きる者と地に足が付いた生き方をする者との対比という、同監督のおなじみの図式はここでも提示されている。ただし、今回はそのコントラストが弱い。いつもならば地道に生きる者をポジティヴに描ききって終わるのだが、“比較対象”としての根無し草の生活を送る者の捉え方もそれほどシニカルではない。

 もちろん、実生活ではそんな明確な二者択一で押し切れるものではなく、竹内演じる若い女に“影響”されてほんの少し積極的に生きるようになる少女の成長した姿も、やっぱり快活な女性とは言い難い。人生なんて互いが微妙に影響し合ってまったりと進む、そんなものだ。

 しかしながら、根岸作品としては(肌触りは良いが)物足りないのも確か。もうちょっとドラマティックな展開があってもいいし、特に中盤の冗長さも気になった。原作との兼ね合いでそれが無理ならば、資質の合った監督が別にいると思う。主な舞台となる80年代の風俗は確かに懐かしいが、どうも表面的に終わっているような感じがしてならない。

 あと、関係ないのだが、大人になったヒロインをミムラが演じているのはどうかと思う。物語の設定は30歳だが、彼女は女子大生ぐらいにしか見えない(実年齢も20代前半だ)。何を考えてキャスティングしたのか、まったくもって謎である。

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