元・副会長のCinema Days

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「タップス」

2022-09-25 06:16:00 | 映画の感想(た行)
 (原題:TAPS)81年作品。アメリカ映画界では、70年代末からベトナム戦争に題材を求めたものが目立ってきた。当然のことながら、それらは反戦のメッセージを伴っていたり、国家と戦争、および個人の関係性をシビアに捉えたものばかりである。本作はベトナムものではないが、戦争の実相を描出しているという意味で、確実に当時のトレンドの中に位置する一本である。

 マサチューセッツ州バンカーヒルにある全寮制の陸軍幼年学校は、開校以来約150年にわたって12歳から18歳までの少年たちを軍のエリートに育成する役割を担い、実績を上げてきた。ところが夏休みを前にした時期に、当学校は次年度いっぱいで閉校になることが発表される。ミリタリー・アカデミーは時代錯誤な存在であるという世論が大きくなり、土地開発のために廃止が決まったのだった。



 そんな折、校長のベイシュ将軍が過失致死傷の容疑で逮捕されたのを切っ掛けに、学校の即時閉鎖が決定される。納得できない生徒会長のブライアンは、在校生に呼びかけて武装した上で抗議の籠城に踏み切る。学校の周りを包囲した州軍の指揮官カービー大佐が説得にあたるが、生徒たちの決心は固かった。デヴァリー・フリーマンによる同名小説の映画化だ。

 幼年学校とはいっても、本格的な訓練が実施されるために戦争を始められるような大量の銃火器が学内に保管されていることに驚かされる。もちろん生徒たちには目的外使用は固く禁じられてはいるが、彼らもそれらは教材に過ぎないと思っている。ただし反面、究極的にはその兵器は社会規律を遵守するための道具として機能させるものであることも叩き込まれている。ならば彼らの身近に社会正義に反する事態が勃発した際は、実力行使も辞さないという思考形態に行き着くことも、十分考えられるのだ。

 生徒たちが信じるのは秩序と名誉である。だがそれは個人が作り出すのではなく、国家が認めたときに初めて発生する。国家、つまりは“公”の概念の基本になるものをスルーしてしまえば、どんなに大義名分があろうとも、兵力の行使はただの犯罪に過ぎない。ならば国家自体に秩序と名誉を担うだけの資格が無い場合はどうなるのかというと、それもまた戦闘行為は不当なものであるという主張をも、この映画は訴えている。

 どんなに崇高な目的があっても、登場人物たちの目の前で展開するのは生身の人間が犠牲になる地獄絵図だ。彼らは自分たちが信じてきた認識が間違っていたことを知るのだが、一方で実力行使を目的化した極端な考えに走る者もいる。そのような行為が終盤の惨劇に繋がるのだが、それもまた人間の多面性の一つだと達観しているあたりが本作の意識の高さを示している。

 ハロルド・ベッカーの演出は強靱で、観る者を最後まで引っ張ってゆく。ジョージ・C・スコットやロニー・コックスらベテランはもとより、ティモシー・ハットンやショーン・ペンなど、当時売り出し中の若手が顔を揃えているのも見どころだ。またデビュー間もないトム・クルーズが重要な役で出ているのも要チェック。オーウェン・ロイズマンの撮影、モーリス・ジャールの音楽、共に万全だ。

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