元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「高野豆腐店の春」

2023-09-16 06:43:51 | 映画の感想(た行)
 いったい何十年前の映画を観ているのだろうかと思った。最近作られたシャシンとは、とても信じられない。それほどまでに古めかしい建て付けの作品だが、よく考えてみると斯様なテイストの映画はシニア層にはウケが良いことは予想され、マーケティングの面では有効なやり方なのかもしれない。もしも本作の客の入りが悪くないのならば、似たような作品がコンスタントにリリースされるのだろう。

 広島県尾道市の昔ながらの商店街にある高野豆腐店は、頑固一徹の高野辰雄と娘の春の2人が切り盛りしていた。手作りの豆腐は評判がよく、地元の大手スーパーからは取引を打診されているが、辰雄は首を縦に振らない。春は明るく気立てが良いが、いわゆる“出戻り”だ。そんな彼女の行く末を、辰雄や周囲の者たちは心配している。そんな中、定期健診のために病院に足を運んだ辰雄は、独り身の年配の女性ふみえと知り合い、意気投合する。



 豆腐屋の佇まいと、妻を亡くして男やもめの店主、そして如才ない娘という御膳立ては悪くない。しかし、遠慮会釈なく彼らの私生活に干渉してくる近所のオッサンどもの有りようは、完全に時代遅れ。いくら尾道の風情のある街並みを背景にしても、違和感は否めない。そんな御近所さんたちから春の交際相手候補の一覧を提示され、一緒になって“オーディション”に臨む辰雄の姿は、大昔のホームドラマだったら微笑ましく映ったのかもしれないが、今観ると脱力するしかない。

 春は好意的に描かれているものの、実はどんな性格なのかハッキリしない。申し分のない彼氏を紹介されても、あえて拒否して別の冴えない男を選んでしまう事情も不明だ。ふみえが被爆二世であり、所用している家と土地を親族が狙っているという辛口のエピソードは取って付けたようにしか思えず。そもそも、豆腐店を題材にしていながら豆腐作りのプロセスがそれほど詳説されていないのは、明らかに失当だろう。

 三原光尋の演出はレトロ風味に走っているようだが、お年寄りの観客にはアピールしても、こっちは置いて行かれるだけだ。ラストの、春の生い立ちが明かされるくだりも共感できない。藤竜也に麻生久美子、中村久美、徳井優、山田雅人、黒河内りく、小林且弥、赤間麻里子といった顔ぶれは堅実だが、意外性は無い。

 特に藤竜也と中村久美は年齢が20歳も離れており、これで“老いらくの恋”を展開させるのは厳しい。あと関係ないが、タイトルの読み方が“たかのとうふてん”であるのは謎だ。あえて“こうやどうふ”と混同するのを狙ったのかもしれないが、大して意味があるとは思えない。
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