人工的な心や生命、つまりAIを題材にして書かれたSFの短編集だ(収録されているのは16編)。編纂担当のジョナサン・ストラーンは専門誌の創刊や、フリー転身後はアンソロジストとして実績を残している編集者とのことだ。書き手ははケン・リュウやピーター・ワッツ、アレステア・レナルズ、ソフィア・サマターなどの現役の作家ばかり。中にはヒューゴー賞候補になった作品もある。
読んだ感想だが、正直言ってほとんど楽しめなかった。こういうアンソロジーでは収録作品ごとの出来不出来が生じることも珍しくないが、本書に限ってはすべてが“万遍なく”面白くない。これはひとえに、題材自体と短編という形式の不一致性によるものだろう。
AIはロボットとは違う。ロボットはSF小説の黎明期から数多くネタとして取り上げられてきた。つまりはメカであり、多くは金属製の人工物である。極端な話、フィジカルな動きをメインにアクションを主体に描けば、それだけで文面が埋められるのだ。対してAIは、その概念は1950年代に出来ていたとはいえ、人口に膾炙したのは21世紀に入ってからだと思う(ちなみに、スティーヴン・スピルバーグ監督が「A.I.」を製作したのは2001年である)。
しかもAI自体がフィジカルな事物とは言えないため、そのコンセプトを説明するまで長い尺を要する。ところが短編だと背景をスッ飛ばして現象面だけを取り上げる必然性があるため、いきおいタッチが表面的になってしまう。本書に収録された作品群も大半がそのパターンであり、何やらワン・アイデアで書き飛ばされたような印象を受けてしまう。これでは読み応えは無い。
しかしながら、映像化してみると面白いものが出来上がるかもしれない。もちろん、複雑なコンセプトをヴィジュアルで簡潔に説明できるほどの有力作家が手掛けることが前提だが、求心力の高い作品に仕上がる可能性はある。特にケン・リュウの「アイドル」やイアン・R・マクラウドの「罪喰い」、アレステア・レナルズの「人形芝居」、ピーター・F・ハミルトンの「ソニーの結合体」などは、うまくやれば傑作になりそうな予感はする。アニメーションの素材としても最適だろう。