元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「水上のフライト」

2020-12-21 06:34:07 | 映画の感想(さ行)

 典型的なスポ根もののルーティンが採用されており、展開も予想通りだ。しかし、この手の映画はそれで良いと思う。ヘンに捻った展開にしようとすると、よほど上手く作らないとドラマが破綻してしまう。また本作では題材が目新しく、紹介される事実もとても興味深い。キャストの健闘も併せて、鑑賞後の印象は上々だ。

 体育大学に通う藤堂遥は、走り高跳びの選手として将来を嘱望されていた。しかし、ある日交通事故に遭い、彼女は下半身マヒの重傷を負う。心を閉ざし自暴自棄に陥っていた遥を外に連れ出したのが、彼女が小さい頃にカヌーを教えていた宮本浩だった。最初は躊躇っていた彼女だが、宮本が主宰するカヌー教室に集まった子供たちや、そこの卒業生である加賀颯太らの励ましを受けて、次第に前を向くようになる。そしてあるとき、パラカヌー競技に出会う。遥はこの種目で再びアスリートを目指そうとするのだった。実在のパラカヌー日本代表選手である瀬立モニカをモデルにした作品だ。

 陸上競技に打ち込んでいた頃の遥は、高慢ちきな女として描かれる。それが不運な事故に遭い“素”の自分に向き合うことによって、初めて今までの結果は彼女一人の精進によるものではないことを知る。周囲の理解やライバルたちの存在があったからこそ、実績をあげられたのだ。

 余談だが、いわゆる“勝ち組”と呼ばれる者たちには、この“他者があって今の自分がある”という視点が欠落しているケースが多い。自助努力だけでのし上がったと盲信し、他者に“自己責任”を押し付ける。本作のヒロインも、斯様な災難に遭わなければ鼻持ちならない人物のままだったのかもしれない。そのことを言及しているだけでもこの映画の優位性がある。

 主人公が本当に打ち込めるものを見つけてからのストーリーは一本道で、鍛錬を積んでスキルを会得し、大きな大会で活躍するまでスムーズに流れる。また、パラ競技に必要な器具の描写も面白い。兼重淳の演出は殊更才気走ったところはないが、堅実な仕事ぶりだ。

 主役の中条あやみはデビュー当時に比べるとかなり演技が柔軟になってきたが、同世代の俳優たちと比べると物足りないところがある。しかし、役作りに対して懸命に頑張っている。特に表情を歪めて汗だくでトレーニングに励むシーンなど、頭が下がる思いだ。努力を惜しまない若手を見るのは気持ちがいい。杉野遥亮に冨手麻妙、高月彩良、大塚寧々、小澤征悦といったち脇の面子も申し分ない。終盤の、文字通り水上を飛ぶようにカヌーを操る競技者の描写は印象的だ。大会の舞台になる山中湖の風景もすこぶる美しい。

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