元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ひらいて」

2021-11-29 06:55:28 | 映画の感想(は行)
 ストーリーもキャラクター設定も、ついでに言えば主要キャストも嫌いなのだが(笑)、映画としては実に面白い。マイナス要因を積み上げた挙げ句、いつの間にかプラスに転じたという、希有な事例を目撃出来る貴重なシャシンだ。この奇妙な味わいは原作によるところが大きいとは思うが、それを見事に映像化した作者の非凡な腕前にも感心する。

 北関東の地方都市の高校に通う木村愛は、成績優秀で人望があり、有名大学への推薦入学も決まりつつある。愛は同じクラスの男子である西村たとえが好きなのだが、彼は他とつるむことを潔しとせず、孤高を保っているような生徒だった。当然、愛に対してもクラスメートとしての対応しかしない。

 ところが彼は、密かに別のクラスの新藤美雪と懇意にしていた。美雪は糖尿病の持病を抱え、そのためか他人と距離を取っていたが、たとえとは気が合うようだ。2人の仲を知った愛は、何とか干渉するため偶然を装って美雪に接近する。綿矢りさの同名小説の映画化だ。



 原作は読んでいないが、いかにも綿矢によるキャラクター造型らしく、ほとんどの登場人物が捻くれている。特に愛は強烈。外ヅラこそ良いが内面は常軌を逸した激情型で、超エゴイストで、超暴力的だ。しかも、欲望の捌け口には性別問わないというバイセクシャルである。たとえは苛烈な家庭環境で育ったせいか、この若さで人生悟ったような寂寥感が漂う。また美雪は、大人しさを装いながら巧妙に目的を果たそうとするクセ者だ。この3人の親や教師、すべてがまったく共感出来ない面子で、とにかく感情移入の対象が皆無という有様だ。

 しかし、なぜか最後までスクリーンから目を離せない。それは彼らが、観ている側のあらゆるイヤな面を代弁しているからだ。古傷を痛めつけられるような居心地の悪さを味わいつつ、次第にその容赦の無さに感心するようになる。それは作者が、単なる露悪的ルーティンに終始せず、観客を不快にさせないギリギリのところで、登場人物たちに対する連帯感を醸し出すような仕掛けを講じているからだ。

 それが効果を発揮するのが終盤の処理で、これからも一山も二山もありそうな幕切れながら、明らかに別の方向性に走り出そうとする不穏かつワクワクするような空気に満ちていて圧巻だ。これが劇場用長編デビューとなる首藤凜の演出は粘り強く、変則的な作劇をものともしない求心力を発揮している。

 愛に扮する山田杏奈は手の付けられない怪演で、とことん後ろ向きのエネルギーに満ちたヒロイン像を上手く表現している。作間龍斗と芋生悠も嫌味ったらしい妙演。正直言ってこの3人は俳優としても好きではないタイプなのだが、思わず振り向かせてしまうパワーがある。河井青葉に板谷由夏、田中美佐子、萩原聖人といった連中も一筋縄ではいかないオーラを見せつけている。岩代太郎の音楽と大森靖子の主題歌も良いが、劇中曲の「夕立ダダダダダッ」(映画のために書き下ろされた)が、アイドルソングのパロディのようで笑ってしまった。
コメント
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