元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ほんとうのピノッキオ」

2021-11-27 06:34:55 | 映画の感想(は行)
 (原題:PINOCCHIO )カルロ・コッローディによる有名な児童文学「ピノッキオの冒険」の本家イタリアでの映画化で、ディズニーのアニメーション「ピノキオ」(1940年)とは一線を画す、原作に近い線を狙っている。そしてそれは、ある程度成功していると思う。とにかく、変則的なファンタジーとしての訴求力は目覚ましいものがある。

 設定やストーリーはお馴染みなので省略するが、まず驚くべきは美術・意匠の素晴らしさだ。主人公のピノッキオの特殊メイクは、まるで本物の木のような感触を醸し出しているし、他のクリーチャーの造型も見事だ。ディズニー版ではチャーミングに描かれていたコオロギはグロテスクに扱われ、主人公たちを呑み込む大鮫はまるで怪獣だ。妖精の世話をするカタツムリや、大鮫の腹の中に住むマグロのデザインなど、あまりにもアバンギャルドで感心する。



 ところが、ピノッキオを翻弄するキツネとネコだけは生身の俳優がそのまま演じている。この二匹は狡賢いが、所詮はホームレスだ。そして終盤には肉体的ハンデを負ってしまう。監督を務めたマッテオ・ガローネは脚本も手掛けているが、あまりに雰囲気をダークな方向に振って観客を逃さないように工夫しているものの、キツネとネコの扱いに限っては恐ろしくシビアだ。

 もちろん、彼らは悪事を重ねているため“自業自得”だとは言える。だが、ピノッキオをはじめ周囲の人々からいよいよ完全に見放されるのは、理不尽だろう。ここはおそらく、社会的差別に切り込んだ作者の思惑があったと想像する。

 わがままな子供だったピノッキオが、数々の辛酸を嘗めることによって成長し、ついに制作者である貧しい木工職人のジェペットと本当の“親子”になるという、教訓に満ちた筋書きはちゃんとカバーされている。

 ニコライ・ブルーエルのカメラによる映像と、ダリオ・マリアネッリの音楽は絶品で、映画の格調を押し上げている。ガローネの演出は中盤以降でモタモタする傾向はあるが、おおむね破綻無くドラマを進めている。ジェペット役のロベルト・ベニーニは自ら主演した「ピノッキオ」(2002年)が不評だったが、今回は捲土重来とばかりに抑制の利いた演技に専念していて好印象。

 子役のフェデリコ・エラピをはじめロッコ・パパレオ、マッシモ・チョッケリニ、マリーヌ・バクト、マリア・ピア・ティモといった他のメンバーも良い仕事をしている。ミニシアター系での上映だが、日本語吹き替えでファミリー向けに拡大公開してもおかしくない内容だ。
コメント
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