元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「かそけきサンカヨウ」

2021-11-15 06:37:03 | 映画の感想(か行)
 今泉力哉監督作品としてはヴォルテージがやや低いように思えるが、それでも繊細なタッチと丁寧な絵作りが印象的で、鑑賞後のインプレッションは良好だ。ここ数年続けざまに映画をリリースしている同監督だが、いずれも一定の水準を維持しているのは大したものだと思う。

 高校生の国木田陽は、音楽関係の仕事をしている父の直とふたり暮らし。画家だった母の佐千代は陽が幼い頃に家を出ている。それなりに平穏な日々を送っていた陽だが、ある日父親から突然“再婚する”と告げられる。そして、なし崩し的に義母の美子とその連れ子の4歳のひなたを加えた新たな家族の生活が始まる。陽は同じ美術部に所属する清原陸と仲が良いのだが、いまだ“付き合っている”という感じではない。そんな中、陸が心臓の手術で入院することになる。陽はその前に、陸と一緒に佐千代の個展に出掛けることにする。窪美澄による同名短編小説の映画化だ。



 斯様な設定にありがちな、継母との確執や勝手に後妻を迎えた父親への不信感といったネガティヴなモチーフが見当たらない。全員が見事なほど“いい人”なのだ。ただし、それを不自然に見せないのは作者の力量と、作品を覆う柔らかな雰囲気のせいだろう。もっとも、ヒロインは新しい母と妹のことより陸や友人たちとの関係を気にしている。家庭内で大きな問題が持ち上がっていないのならば、陽の関心が同世代の者たちに向くのは当然かもしれない。特に陸とのやり取りは、双方に悪気は無いのに気まずい状態になるという、微妙な空気が上手く掬い取られている。

 ただし、陽に対する佐千代の態度はいただけない。佐千代が離婚したのは陽が3歳の頃で、それからずっと会っていないため当初は陽を娘だとは分からないのは当然かとも思えたが、実は気付いていたというのは、作劇の不手際である。もっと別の描き方があったはずだ。とはいえ、ドラマティックな展開が無い代わりに、観る者に安心感を与えるマッタリとした作品のカラーは捨てがたい。

 売り出し中だという主演の志田彩良を初めてスクリーン上で見たが、ソツなくやっていながら、線が細く存在感に欠ける(友人役の中井友望の方が見どころがある)。今後の精進に期待したい。井浦新に鈴鹿央士、西田尚美、石田ひかりといった脇の面子は手堅く、美子に扮した菊池亜希子は相変わらずイイ女だ(笑)。

 あと関係ないが、直の愛用のオーディオシステムはプレーヤーがDENON製でアンプはサンスイ、スピーカーはパイオニアのものだった。しかし、どれも40年以上前のモデルで、満足に鳴るのだろうかといらぬ心配をしてしまった。
コメント
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