元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」

2021-11-07 06:58:00 | 映画の感想(英数)
 (原題:NO TIME TO DIE)これは、断じて「007」シリーズではない。主人公も、皆がよく知っているジェームズ・ボンドではなく、“別の誰か”に成り果ててしまった。この長い連作が積み上げてきたレガシーを、すべて捨て去ったような所業だ。もちろん、創造的破壊という言葉があるように、停滞するシリーズに代わり新しい“何か”が登場するダイナミズムを予感させるのならば、それで良い。しかし、本作には先が全く見えないのだ。まさに“破壊して終わり”の様相を呈している。

 前作で宿敵スペクターを片付けた後、引退して妻のマドレーヌと悠々自適の生活を送っていたボンドのもとに、古くからの友人でCIA局員のフェリックスが訪ねてくる。謎の大量殺戮兵器を開発した科学者が誘拐されので、手を貸して欲しいというのだ。この一件には古巣のMI6も捜査に乗り出しており、ボンドの後任のエージェントが介入してくる。そして事件の黒幕は、マドレーヌの生い立ちに大きく関係しているという。ボンドは再び戦いの場に身を投じる。



 まず、主人公が最初から妻帯者として出てくるのはマイナスだ。もっとも、ダニエル・クレイグが主役になってからボンドの軟派なプレイボーイとしての側面は薄れているが、今回はあまりにも所帯染みているので観ていて居心地が悪い。そして、事件のポイントである新兵器の正体がハッキリしない。

 人体に侵入するナノマシンという触れ込みだが、具体的な仕様(?)は明らかにされないまま、特定の誰かを感染死させるという“効用”のみがクローズアップされる。しかし、これは単なる殺人の道具に過ぎず、世界征服のツールには成り得ない・・・・と思っていると、いつの間にかボンドも“感染”した挙げ句に意味不明の展開に終始。そもそも、敵の首魁のポリシーというか、彼が何を目標にしているのかイマイチ分からない。

 期待されたアクション場面は、序盤のイタリアでのカーチェイスこそ盛り上がったものの、あとは総じて低調。終盤近くの銃撃戦など、緊張感の欠片も無い。キャリー・ジョージ・フクナガの演出は冗長で、メリハリの無いまま2時間40分も引き延ばしており、中盤以降は眠気との戦いに終始。

 そして何といっても、これまでシリーズの中で重要な役割を担っていた人物や組織が軒並み退場したのには面食らった。極めつけはラストの処理で、これは何かの冗談かと思ったほどだ。エンドクレジットでは続編の製作が告知されているものの、この状態ではどうしようもないだろう。ここ数作は“無かったもの”として、新たにリブートするしかない。

 レイフ・ファインズやナオミ・ハリス、レア・セドゥ、ジェフリー・ライトといった顔ぶれは、作品自体の覇気が無いためかマンネリに見えてしまう。悪役のラミ・マレックも精彩を欠く。印象に残ったのはキューバのCIA局員に扮したアナ・デ・アルマスぐらいだ。なお、史上最年少でこのシリーズの主題歌を担当したビリー・アイリッシュの仕事ぶりは秀逸。今後もチェックしたいミュージシャンだ。
コメント
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