元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ランブリング・ローズ」

2016-11-11 06:38:18 | 映画の感想(ら行)
 (原題:RAMBLING ROSE)91年作品。モントリオール映画祭の正式出品作品で、同年のアカデミー賞の主演女優賞などにノミネートされた話題作。アメリカのリベラルな伝統が、南部を舞台にして、マーサ・クーリッジ監督の手でうまく生かされている佳篇だと思う。

 1935年の夏。ジョージア州に住むヒリアー家は、ローズという娘をメイド兼3人の子供達の遊び相手として雇い入れる。彼女はヒリアー夫婦とすぐに打ち解け、子供達も懐いてすべて上手くいくように思えたが、実はローズは元売春婦だった。幼い頃に両親に捨てられ、ずっと売春宿で暮らしてきたのだ。そのためか性欲が人一倍強く、ヒリアー氏は彼女が“暴走”しないように絶えず気を遣っていた。しかし長男のバディは思春期に差し掛かっており、ローズを“女”として捉えて落ち着かない日々を送るハメになる。



 ある日、街でローズを巡って2人の男がケンカを始め、止めに入った警官のウィルキーに彼女は掴み掛かったため逮捕されてしまう。ところがこれが縁でローズはウィルキーといい仲になり、やがて結婚することになる。周囲は祝福するが、バディにとっては失恋同様のショックを隠せない。それから36年の時が流れ、年老いた父親を訪ねたバディは、ローズのその後の人生を知るのであった。

 保守的だが、人情に厚い南部の風土が的確に捉えられている。しかも、年上の女に憧れる少年の視線で描かれるという鉄板の設定を踏襲。だからこそ、突拍子も無い若い娘が画面を闊達に動き回っても違和感を覚えない。

 出色なのが、ヒリアー夫人のキャラクター設定だ。聴力障害はあるが、北部出身で大学卒。人柄も良く、皆に親しまれている。実家も金持ちであり、大恐慌なんか知ったことでは無い。彼女と頑固だが頼りになる旦那とのコンビネーションは、古き良き時代の理想的な家庭を違和感なく表現している。また、ヒリアー夫人の生き方とローズの振る舞いが絶妙のコントラストを演出し、ドラマに奥行きを持たせている。

 ローズに扮したローラ・ダーンは、間違いなく彼女のフィルモグラフィの中で最良のパフォーマンスを見せている。ヒリアー夫妻を演じるロバート・デュヴァルとダイアン・ラッドも堅実な演技。バディ役のルーカス・ハースはこの頃は初々しい。エルマー・バーンスタインによる流麗な音楽と、ジョニー・E・ジェンセンのカメラがとらえた痺れるほどに美しい南部の風景。ヒロインの生涯を垣間見せるラストも含めて、鑑賞後の印象は良好だ。
コメント
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