元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「マルコヴィッチの穴」

2015-08-02 06:47:50 | 映画の感想(ま行)

 (原題:Being John Malkovich)99年作品。スパイク・ジョーンズの監督デビュー作だが、第一作からこれほどの才気を漲らせていたことに改めて驚かされる。国内外で多くの賞を獲得したのも納得出来るような快作だ。

 うだつの上がらない人形使いのクレイグは、ペットショップ店員の妻・ロッテと暮らしているが、倦怠期でしかも生活は苦しい。何とかカタギの仕事を見つけようとするクレイグだが、ひょんなことからビルの7階と8階の間にある狭苦しいフロアに事務所を構える会社の面接を受け、そこで書類整理の職を得る。

 ある日彼は、キャビネットの裏に隠された扉を発見する。それを開けると穴があり、何かに引っ張られるようにそこに入ると、有名俳優ジョン・マルコヴィッチの頭の中に到達してしまう。穴を通ればマルコヴィッチの脳に15分間だけいられることが分かった彼は、その穴を使って商売を始め、成功を収める。ところが、穴に入ってマルコヴィッチに成りきったロッテが自身の“思わぬ趣味”に気付いたあたりから話はややこしくなり、果ては穴の正式な所有者である社長グループが、クレイグを邪魔者扱いするようになる。

 まさにアイデアの勝利。別人の頭の中に通じる穴が存在するというモチーフだけでも面白いのに、登場人物達の屈託が途轍もなく大きく、それによって騒動を幾何級数的に広げていくあたりは見上げたものだ。S・ジョーンズの演出は闊達で、弛緩したところがない。

 冒頭の人形劇のアヴァンギャルドな描写から始まり、手持ちカメラの多用による即物的な映像構築、ついにはマルコヴッチ自身が自分の頭の中に入ることによって起こる奇々怪々な事態など、畳み掛けるネタの波状攻撃によって退屈するヒマがない。シニカルなラストも、説明過多にならずサッと突き放しているのがよろしい。

 主人公のしがない夫婦を演じるジョン・キューザックとキャメロン・ディアスは快演だが、チャーリー・シーンやジョーン・ペン、ブラッド・ピット、ウィノナ・ライダー等、無駄に豪華なキャストが出てくるのも愉快だ。さて、もしもこれを日本で作るとしたら、どんな“穴”になるのだろうか。“役所広司の穴”か? それとも“浅野忠信の穴”? いやいや、やっぱりここは“大杉漣の穴”だろう(笑)。
コメント
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