元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「なつやすみの巨匠」

2015-08-08 06:30:07 | 映画の感想(な行)

 出来の良さにびっくりした。福岡市西区にある能古島を舞台にした地方発信の映画だが、同じく以前福岡県内で製作された“ご当地映画”である「千年火」や「スーパー・ハイスクール・ギャング」といった作品が低レベルであったこともあり、大して期待せずに臨んだのだが、これは嬉しい誤算であった。

 能古島に住む小学4年生のシュンは、夏休み中もやる気が起きず、ヒマを持て余していた。地元で行われていた水泳実習もサボってばかり。ある日、彼は学生時代に映画研究部員だった父から古びたビデオカメラを譲り受ける。かねてよりハリウッド映画好きだったこともあり、シュンはすぐにそのカメラに夢中になる。さっそく悪友2人と映画撮影の真似事に熱中するが、野郎ばかりでは味気なく、早々にマンネリに陥ってしまう。

 そんな中、島でアトリエを構える老人のもとに、シュンと同世代の女の子ユイが預けられる。ユイは老人の孫なのだが、家出同然で出て行った娘とブラジル人男性との間に出来た子供で、ある理由により夏休みの間だけこの島に滞在することになったのだ。シュンは彼女に一目ぼれしてしまい、自分の“映画作品”にユイをヒロインとして出演させることにする。

 何より感心したのは、登場人物達が地に足が付いていることだ。主人公の家のテレビはブラウン管式で、部屋にはビデオテープが並べてあることから、最初は時代設定が今から十数年昔だと思っていた。しかし、時折画面に映される福岡市中心部の風景は紛れもなく現代のもの。そう、シュンの家庭や周りの者の生活は豊かでは無いのだ。

 父親は漁師だが、港に停泊している漁船の半数以上は稼働していない。島には観光資源こそあるが、確固とした産業は根付いていない。さらにはシュンが引き起こしたトラブルによって、父親は窮地に追いやられてしまう。島の実態を丁寧に描いているからこそ、幾分非日常的な少年少女の甘酸っぱい“アヴァンチュール”(笑)が違和感なく展開出来ている。

 脚本は福岡出身の入江信吾の手によるものだが、名の知れた原作の映画化しか企画が通らない昨今の日本映画界に対抗するように、オリジナルのシナリオで勝負しているところが嬉しい。後半から終盤に至るまでの伏線の張り方も堂に入ったもので、特にラストの大仕掛けには感動すら覚えてしまった。

 中島良の演出は堅実で、大人のキャストの動かし方にはなかなかの技量を示している。父親に扮する博多華丸をはじめ、板谷由夏、落合モトキ、リリー・フランキーなど、皆持ち味を発揮した好演だ。感心したのが母親役の国生さゆりの演技で、もっと映画に出て欲しいと思わせるほどのパフォーマンスを示している。野上天翔や村重マリア(姉がHKT48のメンバーらしい)ら子供達のキャラも立っている。

 そしてエンディングテーマの井上陽水の「能古島の片想い」が効果的。なお、よく上映前に流される“映画館でのマナー”の映像が、地元の子供達による自作自演であるのがケッ作だった(笑)。
コメント
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