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元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「阿弥陀堂だより」

2012-06-09 22:33:50 | 映画の感想(あ行)
 2002年作品。これはひょっとして、浄土宗のPR映画ではないのか。舞台が阿弥陀仏への信仰が盛んな長野県の山村で、浄土宗の教義に則っていると思われる妙に達観したセリフやモノローグが頻繁に挿入される。そもそも、都会生活に疲れた中年夫婦が山里に引っ越して生きる望みを取り戻すというストーリー自体が図式的だ。

 しかし、それらマイナス要因を勘案しつつも、この映画は抗しがたい魅力に溢れている。たとえば、寺尾聰扮する主人公が村の広報誌の配達を兼ねて老人達(俳優ではなく素人)に話を聞く場面はドキュメンタリー映画の装いだが、それが決して不自然に見えないのは、ドキュメンタリー的シチュエーションをフィクションである本編が引き込んでいるためである。



 決してフィクション側が“自然な作劇”におもねってドキュメンタリー手法を取り入れているのではない。言い換えれば、ドキュメンタリー的展開をも作劇の一要素にしてしまう作者の度量とテーマの普遍性が“特定の宗教からのバックアップ”という外見性や展開の作為性を完全にカバーしているのだ。

 このように作者の素材への理解度が核心を突いていれば、あとは安心してこの作品の雰囲気を楽しめる。“癒やし”という言葉は好きではないが、この映画はエクステリアも内装も観ていて実に“癒やされる”。美しい山里の風景と着実に“今を生きている”登場人物たちの佇まいは世知辛い日々に追われる我々にとって格好の清涼剤になるのは確か。劇中で時おり紹介される「阿弥陀堂だより」のフレーズも心に滲みる。

 キャスト面では阿弥陀堂のおうめばあさんを演じた北林谷栄が神業的な存在感を見せ、主人公の妻を演じる樋口可南子がノーブルな美しさで観る者を魅了する。喋ることの出来ない少女を演じ、その年度の新人賞を総なめにした小西真奈美のパフォーマンスは万全。加古隆の音楽もいい。黒澤明の遺稿による「雨あがる」で世に出た小泉堯史監督は、この二作目で独自の作家性を獲得したように見えた。
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