(原題:WE BOUGHT A ZOO )何とも“ぬるい”映画である。各モチーフの上っ面を撫でただけであり、ストーリー展開は行き当たりばったり。何ら突っ込んだ描写や骨太のテーマの表明も成されておらず、この程度で“感動作”を標榜しないでもらいたい。
コラムニストのベンジャミンは半年前に最愛の妻を亡くし、失意の中にあった。仕事面でも行き詰まった彼は、心機一転を図るべく郊外の丘の上に立つ古い邸宅を購入する。ところがその物件には、前所有者が開設し今は休業中の動物園を維持するという条件が付いていた。再オープンを決意して奔走するベンジャミンだが、資金繰りが苦しい中、さらに当局からの査察まで入ってくる。果たして彼は動物園を再建出来るのか・・・・という話だ。
いささか突飛な設定だが、英国のコラムニストであるベンジャミン・ミーの自伝を元にしており、ほとんどが実話だという。ならば“本当にあったのだ”ということを観客に納得させるために、ディテールを練り上げなければならない。しかし、どうもこのあたりがいい加減なのだ。
いくら辛いことがあったとしても、それがどうして“田舎暮らし”に繋がるのかよく分からないし、主人公が動物園の運営に乗り出す理由も説明されていない。さらには、オープンの目処が付かないのに黙々と動物の世話をする従業員達の、強い使命感も描出されているとは言い難い。
ベンジャミンの中学生になる息子は病的な絵ばかり描いて心の傷が深いことが示されるが、後半には大したプロセスも経ずにコロッと“良い子”に変貌してしまうのだから呆れる。そもそも主人公の悪戦苦闘を取り上げる前に、この地に動物園がいかに必要だったのかを十分に説明すべきだったのではないか。おかげでベンジャミンの行動が単なる向こう見ずな“蛮勇”見えてしまうし、終盤の感動シーンも薄っぺらになってしまった。果ては中盤から話が亡き妻との馴れ初めなんかに移行するようになるのだから、観ていて脱力するばかり。
キャメロン・クロウの演出はキレもコクもなく、主演のマット・デイモンや相手役のスカーレット・ヨハンソンも熱演のわりにはこちらに迫ってくるものがない。まあまあ良かったのは、若い飼育員に扮したエル・ファニングぐらいだ。
結局、本作の唯一の見どころ(聴きどころ)は音楽である。何と、アイスランドの先鋭的バンド“シガー・ロス”のヴォーカル担当のヨンシーが起用されている。流れるような、それでいて音像のエッジが“立って”いるような独特のスコアは、作品の雰囲気が安っぽくなるのを何とか食い止めているようだ。サントラ盤だけはオススメである。