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元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ミッドナイト・イン・パリ」

2012-06-12 06:38:58 | 映画の感想(ま行)

 (原題:MIDNIGHT IN PARIS )ウディ・アレンの語り口が冴える快作だ。洒落ていて、笑いも取れて、幕切れは感慨深いという、ソフィスティケイトされた都会派コメディの見本みたいなシャシンである。しかも今回はSFファンタジー(?)みたいな御膳立てが成されており、広範囲な観客にアピール出来る。娯楽映画はかくありたいものだ。

 ハリウッドで活躍する脚本家のギルは、婚約者イネズの両親の出張旅行に同行してパリにやってくる。シナリオの仕事には区切りを付けて小説家としてデビューしたいギルだったが、イネズはすでに映画の世界である程度成功を収めている彼に“危ない橋”を渡らせたくはない。婚約者との仲がギクシャクする中、パーティの帰り道で迷子になった彼は、いつの間にか1920年代のパリにタイムスリップしてしまう。そこでヘミングウェイやピカソ、ダリなどの天才達に出会うことが出来て有頂天になり、それからは毎晩、夜間限定の時間旅行にのめり込むのであった。

 コンプレックスを抱えているくせにプライドだけは高く、何かとインテリぶった講釈を垂れるギルは言うまでもなくアレンの“分身”だ。今回はさらに、イネズの知人でこれまた能書きばかりを並べ立てる鬱陶しいインテリのポールという人物を配置させ、鼻持ちならない“インテリのツートップ”を形成しているあたりが笑える。

 ギルは黄金期のパリでモディリアーニの元恋人であるアドリアナに出会うが、彼女は自分が生きている時代に不満を持っていて、それより昔の世紀末のパリに憧れている。やがて二人はさらに時間を遡ることになるが、そこに生きている人々も“過去は輝いていた”と言うばかり。

 結局、過ぎた時代を懐かしく思うより現在を精一杯生きる方が大切なことなのだ・・・・という通り一遍のテーマに繋がるハナシなのだが、説教臭さは微塵も無い。つまりは“御膳立て”の時点で相当練り上げられており、手垢にまみれた主題さえ精緻なピースの一部としてしっかりと機能し、輝かせている。

 描かれる現在のパリの風情も魅力的だが、過去のパリは誰もが魅了されるほど素晴らしい。ノスタルジックで猥雑で、しかも可能性に満ちている。ファンタジー仕立てであるからこそ、一切舞台装置に手を抜かないマジメさが嬉しい。

 ギル役のオーエン・ウィルソンは好演。屈折しているのだが、どこか楽天的なヤンキー気質をも持ち合わせた主人公像を軽妙に表現していた。アドリアナを演じたマリオン・コティヤールは今までの出演作の中で一番魅力的だ。モディリアーニやピカソが惚れるのも当然と思わせるほど、フェミニンな雰囲気を漂わせていた。雨に煙る夜のパリで幕を閉じる本作、後味も最良だ。観る価値は大いにある。
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