つまらない。監督の周防正行の嫁御であるバレリーナの草刈民代の“引退映画”としての側面を持っていることは観る前から分かっていたので、何も“バレエの真髄”を追求するような類のシャシンではないことは納得出来る。しかし、これほどまでに訴求力の低い画面ばかり並べてもらっては、ダンサー達の頑張りも無に帰してしまうだろう。
バレエ界の巨匠であるローラン・プティが名手ルイジ・ボニーノのために創作し91年に初演されたバレエ「チャップリンと踊ろう」を題材にした作品である。映画は二部構成で、前半はメイキングを扱っている。練習風景やプティと周防との葛藤、そして還暦に達しても衰えを見せないボニーノの姿は興味深いが、映画的興趣はさほど高いとは言えない。まあ普通の映像だ(第二部の“前振り”みたいな位置付けなので、仕方がないのかもしれない)。
で、肝心の後半はどうかというと、これが呆れるほど面白くない。チャップリンの作品のワンシーンに着想を得たという創作バレエが延々と続くのだが、イマジネーションの欠片もない平板な振り付けで凡庸なダンスが提示されるのみ(まあまあ楽しめたのは警官隊の踊りぐらいだ)。ハッキリ言って、昔のチャップリンの映画を観ていた方が遙かにマシではないか。いったい何が楽しくてこんな出し物を作ったのだろうか。
もちろん、これは映画用に作られた一幕物のプログラムであり、実際は二幕構成でもっと多彩な展開が用意されていることは想像に難くない。それ以前に、バレエは映像作品で観るよりも実演に接する方が感銘度が高いことは承知している。でもそれらを差し引いてもこの退屈さには我慢できない。中盤以降は眠気を抑えるのに苦労した。
別の題材の方を取り上げた方が数段マシだったのではないか。ボニーノが得意としていた「ジゼル」でも「コッペリア」でも良かった。あるいはチャイコフスキーでもストラヴィンスキーでもいいから、誰でも知っているネタで勝負した方が盛り上がったはずだ。
そもそもバレエ映画には過去に「愛と喝采の日々」とか「愛と哀しみのボレロ」とかいった傑作・秀作が少なからずあることは、当の周防監督も知っていたはずだ。ところが、往年の有名作に比肩しうるようなレベルに仕上げようという意気込みがここには何も感じられない。かといってマドンナ役の草刈が特別に美しく撮られているというわけでもない。
周防作品には珍しい、大味で雑な凡作である。まあ“日本人にはバレエ映画を撮れるだけの素養がないのだ”という見方も出来るのだが、それはまた別の問題だろう(^^;)。