元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「八日目の蝉」

2011-05-21 07:19:01 | 映画の感想(や行)

 なかなかの力作だとは思うが、重大な欠点がある。それは、男性の描き方が淡泊に過ぎることだ。妻がいる男の子供を身ごもった希和子は出産をあきらめ、しかし思い余って男の家に忍び込み、女の赤ん坊を誘拐して逃亡。4年後にその子・恵理菜は家に帰されるが、彼女が成長して大学生になると、またしても家庭を持つ男の子供を妊娠してしまう。

 要するに本作のヒロイン二人は“身持ちの悪い女”なのだが、当然のことながら責任は彼女たちだけにあるのではない。避妊することも考えず不用意に孕ませた男の側の態度は、指弾されてしかるべきだ。ところがこの映画は、男の責任をほとんど追及していない。

 ダンナに浮気された妻の攻撃は、いい加減な夫ではなく希和子の方に向いてしまう。恵理菜の交際相手に至っては、劇中で姿を消す有様だ。もちろん、彼女たちが“男には非はないし、だいたい男なんて種付けの役割しかない”と割り切るのは勝手だ。しかし、一般世間ではそんなのは通用しない。スキャンダルが発覚すれば、浮気した男は容赦なく吊し上げられる。

 そもそも認知および親権の扱いはどうするのか。本人達の意向には関係なく、そういう“型にはめる”ような在り方を要求してくるのが世の中というものだ。それらをネグレクトして“母性とは何か”などといった抽象的な事象に拘泥してもらっても、こちらは困惑するだけである。

 さらに、強引すぎる設定を何とか言い繕うためか、希和子の逃げ込み先にカルト宗教のコミューンのような場所をセッティングしている。これはいくら何でも御都合主義ではないのか。仰々しい割に“駆け込み寺”としての存在価値しかないこの教団の描き方は、作者の宗教に対する斜に構えた姿勢の現れかもしれないが、正直取って付けたような印象しかない。

 しかし、以上のような不行き届きが散見されるにもかかわらず見応えがあるのは、キャストの頑張りに尽きる。希和子に扮する永作博美は、彼女の映画での仕事ではベストだ。屈折した母性がその張りつめた表情から迸る様子は圧巻といえよう。恵理菜を演じる井上真央は頑張っている。他の同世代の若手女優と比べれば役柄を余裕で引き寄せるようなオーラには欠けるが、精一杯努力してキャラクターを自分のものにしている。敢闘賞ものだ。

 余貴美子や市川実和子、風吹ジュンなどの実力派が持ち味を遺憾なく発揮し、田中泯は素晴らしい存在感でドラマを引き締める。そして主演の二人以上に良かったのが小池栄子だ。子供の頃のトラウマのおかげでコンプレックスの塊のような人生を歩んできたルポライターという、ヘタすればクサくて見ていられなくなるような役柄を、渾身の演技で実体化させている。今年度の助演女優賞候補となるべきパフォーマンスだ。

 成島出の演出は粘り強く、最後まで観客を引っ張り回すだけのパワーがある。藤澤順一のカメラによる美しい映像(特に小豆島の風景)も要チェック。音楽は安川午朗が担当しているが、挿入曲のジョン・メイヤーの「Daughters」が効果を上げている。とても諸手を挙げて評価出来るような作品ではないが、観て損はないとは思う。
コメント (2)
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