元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「A.I.」

2010-01-16 07:06:25 | 映画の感想(英数)

 (原題:Artificial Intelligence)2001年作品。SF版のピノキオ物語といった感じの作品だが、本来はスタンリー・キューブリックが企画していたネタだ。彼が死去したため、スティーヴン・スピルバーグによって監督された。

 寒色を活かした静謐な室内などの映像構成にキューブリックを意識している点が見て取れるが、それ以外は見事なほどの“スピルバーグ印”に覆われた作品だ。つまり、人物描写がカラッポだってこと。母親の愛が欲しい「だけ」の子供型ロボットのデイヴィッドをはじめ、息子が恋しい「だけ」の母親、ロボットが鬱陶しくなった「だけ」の父親に、デイヴィッドに嫉妬する「だけ」のマーティン(本当の息子)、ロボットを排斥したい「だけ」のジャンク・フェスタの連中etc.どれもステレオタイプの紋切り型であり、それ以上何ら深い洞察はない。

 したがって、物語がドラマティックに発展することもなく、後半部分はただの冒険談になっている。もっとも、キューブリックもキャラクターの内面をスッ飛ばすことが多かったが、それは狙ってやっているのであり、スピルバーグみたいに“描きたくても描けない”あるいは“描いてないけど描いたつもりになっている”のとはワケが違う。

 脚本が穴だらけなのも、いかにもスピルバーグだ(今回は自分でシナリオを書いているから尚更)。第一、デイヴィッドがマーティンと全然似ていないのにはガッカリ。これでは最初母親が彼と会った時にあれだけ驚愕した意味がないではないか。重要な役であるはずのウィリアム・ハート博士の扱いも刺身のツマ程度だし、ジュード・ロウ扮するセックス・ロボットも、言葉をしゃべるテディ・ベアも、面白いのは見掛けだけ。少しもドラマに深くかかわらない。終盤の「未知との遭遇」の類似品みたいな展開にいたっては言語道断。コニー・アイランドのシーンで終わっていればまだマシだったかも。

 でもまあ、まったく観る価値はないかといえば、そうでもない。何よりSFXが素晴らしい。特に海に沈むマンハッタンの場面にはシビれた。ジョン・ウィリアムズの音楽も万全。今回は思いっきり“癒やし系”に振った音作りで、映画の雰囲気を盛り上げてくれる。主人公役のハーレイ・ジョエル・オスメントの演技も達者だ。
コメント
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