元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「カティンの森」

2010-01-21 06:23:08 | 映画の感想(か行)

 (原題:Katyn )監督のアンジェイ・ワイダが長い間構想を練って撮った、力の入った作品であることは分かるのだが、残念ながら少しも面白くない。早い話、焦点が絞り切れていないのだ。第二次大戦下のポーランドで起きた虐殺事件を題材として取り上げるのならば、当然それに対してドラマ自体のヴォルテージの大半を使い切らなければならないはずだが、不必要に他のモチーフを大きく混在させてしまっている。

 1939年のポーランドは、西からナチスドイツが迫り東からはソ連が圧力を掛けてくるという、まさに逃げ場のない状況だった。ドイツ軍から逃げようとして東へと進むアンナ(マヤ・オスタシェフスカ)とその娘ヴェロニカは、夫のアンジェイ大尉(アルトゥル・ジミイェフスキ)と野戦病院で再会する。一緒に逃げようと言う妻の説得を振り切って、苦楽を共にしてきた仲間と共に、ソ連軍によって収容所に連行されてゆく。観る側としては、当然この一家を軸にドラマは進むと思うだろう。しかし、実際はそうならないのだ。

 アンジェイが属していたポーランドの部隊を率いる大将の妻がクローズアップされるところまでは、まあ許せる。ところが話が戦後に移ってからは、アンナ達とあまり接点のない人物が次々と現れては、自分勝手な(?)エピソードを展開していく。表面的にはロバート・アルトマンなどが得意とした“集団劇”とも似ていなくもないが、多彩な人物像が融合して大きなうねりとなるダイナミズムはまったく感じられず、それぞれが単発的な展開に終始する。

 映画の終盤になってようやくカティンの森の悲劇が映し出されるのだが、話があちこちに飛んだ後に見せられるのでは、正直あまりインパクトは感じられない。これをクライマックスに持ってくるのならば、ポーランド将校の苦悩と、ソ連とナチスとのイニシアティヴ争いや、もちろんアンナ達の行動などを、その前の段階までに粘り強い演出と凝縮させた作劇でサスペンスを盛り上げるべきである。

 また戦後の話に重点を置くならば、人物配置に細心の注意を払い、鬱屈したポーランドの社会に影を落とすカティンの森の事件を物語の背後から描出するという手もあったはずだ。作者自身が言いたいことが多すぎて、あれもこれもと盛り込むうちに収拾が付かなくなったのだろう。

 数十回も脚本を書き直しても、それがプラスに働くとは限らないのだ。このまとまりの無さが、いくつかの映画祭(および米アカデミー賞外国語映画部門)にエントリーされながら、大賞受賞には至らなかった原因だと思われる。なお、クシシュトフ・ペンデレツキの音楽(既成曲)だけは見事であった。
コメント
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