元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「オリヴィエ オリヴィエ」

2008-08-06 06:29:39 | 映画の感想(あ行)
 (原題:Olivier Olivier )92年作品。南仏の農村に住む家族の物語。獣医の父親はどちらかというと家庭を顧みないタイプ。小学生の姉弟のうち8歳になるオリヴィエだけを異常に溺愛する母親。面白くない姉。一見マトモだが中では暗い葛藤が渦巻いている一家にある日突然不幸が襲う。お使いに行ったオリヴィエが行方不明になる。母親は錯乱。父親は新任地のアフリカに逃げるように旅立つ。事件は迷宮入りになり、捜査を担当していた刑事も転勤になる。月日は流れ、パリでオリヴィエによく似た男娼(グレゴワール・コワン)が見つかる。彼は家族の元へ送られるが、泣いて喜ぶ母親をよそに、姉ナディーヌ(マリナ・ゴロヴィーヌ)は断じて彼がオリヴィエだとは信じない。果たして彼は本物なのだろうか・・・・。

 アグニエシュカ・ホランド監督がアメリカで「秘密の花園」を撮る前にフランスで作った映画である。「秘密の花園」が“陽”だとすると、この映画は日陰に咲いた花というところか。コインの裏表みたいな関係である。登場人物は自分の“箱庭”から最後まで出られない。

 仕事一筋の父親と子離れできない母親とわがままな長女と甘ったれの息子。どうしようもない一家に見えて、実はどこにでもある家庭のように思える。体裁を取りつくろうだけの家族は、悲劇が起きて離散する前からバラバラだったのだ。女流監督の特徴なのかもしれないが、同性の描き方には容赦がない。盲目的に息子を愛し、失踪したあとは滑稽なほど取り乱し、息子らしい少年の出現に手の平を返したように上機嫌になる。娘にしても、父親と弟がいなくなったことで、自分だけが母親の愛を独占できるという暗い喜びにひたる。対して、いたってお気楽な例の少年はそんなドロドロした人間関係など興味がないらしく、無邪気にナディーヌへ愛を打ち明けたりする。この飄々とした明るさがドラマの救いになっている。

 ラストは意外な真相が明らかにされ、家族は慄然と立ち尽くすしかないのであるが、ここに到る伏線の張り方がなかなかうまい。特に、オリヴィエが立小便するときの鼻歌(?)が重要な暗示になるあたりは感心した。南フランスの明るい陽光が、陰惨ともいえる事件、それを引き起こした自閉的な登場人物たちと皮肉なコントラストを見せる。

 ホランド監督の演出は後半にナディーヌが“念力”を見せるあたりに無理があるものの、まずは及第点である。音楽はまたもやズビグニェフ・プレイスネルで、きれいなメロディは作品に磨きをかけている。
コメント
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