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元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「秘密の花園」

2007-01-09 06:51:51 | 映画の感想(は行)
 (原題:The Secret Garden )93年作品。「敬愛なるベートーヴェン」など、近作ではパッとしないアニエスカ・ホランド監督の、最良作と思われるのがこの映画だ。

 エドワード朝時代、植民地インドで暮らす英貴族のわがままな娘メアリーが、両親を亡くし、引き取られた先のイギリスの館で、初めて友人を得、枯れ果てた庭園をよみがえらせるまでを描くファンタジー。「小公女」などのフランシス・バーネットの誰でも知っている原作の映画化である。

 まず、映像が完璧に近い。エキゾティックなインドの風景から、寒々としたイングランドの荒野へと切り替わる絶妙のコントラストに感心していると、迷路のような屋敷や荒涼とした冬の大地の描写がゴチック・ロマン趣味をかきたてる。そして圧巻は“秘密の花園”の造形である。これを見るだけでもこの映画に接する価値はある(美術監督は「エレファント・マン」などのスチュアート・クレイグ)。さらに衣装の見事さ、ズビグニェフ・プレイスネル(「ふたりのベロニカ」や「ダメージ」などでおなじみ)による透き通るような音楽。エンドクレジットに流れるリンダ・ロンシュタットの「ウインター・ライト」が美しさの限りだ。

 もちろん、この映画の良さはそんな“外見”の美しさだけではない。頑迷に凍り付いた心を無垢な存在が溶かしていくという、古今東西、あらゆるパターンで語られてきた寓話を----そう、マジに描くと赤面してしまう題材だ----これほどまでに普遍性を持った作品に仕上げたこの監督の当時の力量は侮れないものだった。48年ワルシャワ生まれのホランド監督の子供時代は戦争の爪痕が生々しい瓦礫の山に囲まれていたという。また、父親は政府によって殺されてもいる。誰もが生活に疲れ、心の中に荒れ果てた“花園”を持っていた時代、この荒涼とした風景の中から立ち直るためには、逆境と孤独をはね返すポジティヴなパワーしかなかったのだろう。そう考えると、この映画は単に頭の中だけで考えたファンタジーではない。映画の設定はそれなりに切迫しているのだ。

 登場人物は全員が不幸である。愛に恵まれていない。寒々とした庭園はその象徴である。でも“枯れ木に見えても中ではちゃんと生きている。眠っているだけさ”という主人公の友人の言葉通り、作者は人間を信用している。終盤、子供たちの祈りが通じ、愛する妻を失ってからずっと悲しみにくれていた館の主の心が明るさを取り戻すとき、美しい花園は囲われた“箱庭”のワクを越えて、大地いっぱいに春をもたらす。もう、ここまで感動的に持って行かれると、さすがの冷血漢の私も目頭が熱くなる。

 ジョン・リンチ、マギー・スミスといったクセ者のキャストが物語から浮くことなく自然な演技に徹しているのにも感心したが、子役の上手さといったらハンパではなく、映画の成功に大いに貢献している。

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