元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「つきせぬ想い」

2008-08-25 06:37:26 | 映画の感想(た行)
 (原題:新不了情)93年作品。余命いくばくもない娘と失意の作曲家との純愛。その年の香港電影金像奨(香港のアカデミー賞)で主要部門を独占した話題作で、香港では興行的にもかなりの成績をおさめている。

 とにかく、当時の新人女優・アニタ・ユンの存在感に圧倒される。豊かな表情、とことん明るい性格、しなやかな肢体、それでいて何ともいえない気品と、セックスの匂いを感じさせない透明なキャラクター。彼女が出てくるだけで画面がパァーッと華やいでくる。私は本作をアジアフォーカス福岡映画祭で観たのだが、彼女自身も舞台挨拶のために来ていた。実物はマジに映画の中よりもさらに可愛く、見とれているうちに“オードリー・ヘップバーンの再来?”なんていうとんでもないことが頭の中をよぎってしまった(^_^;)。残念ながら彼女は現在引退しているが、この時の輝きはただものではなかったと言っておこう。

 さて映画だが、もう絵に描いたような難病物のラブ・ストーリーである。難解なところはどこにもない。物語も予定調和だ。しかし、この通俗的な題材で、いくら香港映画とはいえ(おいおい ^^;)大多数の観客の紅涙をしぼり出すほどに感動的な作品に仕上がったのは、思いきった作者の正攻法のアプローチにつきると思う。

 主人公の作曲家が引っ越した下町の安アパートの下の階に住んでいたのが、大道芸一座の娘であるヒロインで、彼の吹くサックスの音色が二人を結び付けるという設定はよくあるパターンだが、監督イー・タンシンはヒロインや周囲の人々の境遇を実に細かく描ききることによって違和感を払拭させている。特に広東オペラを演じる一座の描写はドキュメンタリー映画のようでもあり、このディテールにこだわる作者の姿勢が物語を絵空事にさせていない。クサイ大芝居もなく、大仰な仕掛も皆無。寒色系を活かした香港の街の情景も、クールなジャズ系の音楽も、主人公二人の関係を盛り上げるためだけに奉仕する。

 これを観ると「ゴースト/ニューヨークの幻」とか「めぐり逢えたら」といったハリウッド製ラブ・ストーリーが、いかに目新しさを狙って脚本に四苦八苦しているかがよくわかる。要は小手先のプロットではなく、物語の力を信じる作者の確信犯ぶりである。“死んでいったヒロインが返還を目前にした香港そのもののメタファーになっている”なんてことがパンフにあったが、ここまで深読みしなくても、これはみずみずしい魅力にあふれたラブ・ストーリーの佳作である。印象的なラストの幕切れも忘れがたい。
コメント
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