新潮新書の新刊。書店に並び始めだが、きっと評価が分かれる本(どちらかと言えばネガティブ)になると思う。
「日本人のための世界史入門」とあるが、明らかに入門書ではない。筆者がかなりの独断で、好きなように世界史の事実を抜粋し並べ、作者の感想と雑学をごちゃごちゃに混ぜ合わせた内容なので、世界史を学びたいと思った人がこの本を読んでも、きっと何も分からないと思う。著名人が講演会で好き勝手にしゃべり倒した内容をそのまままとめたような本である。
ただ、私自身は、「極端に言い切っているなあ~」と苦笑いしつつも、結構、楽しめて読めた。筆者は「歴史に発展の必然性もないし、法則性もないというカール・ポパーの立場をとる」として、「歴史は単にあった事実だけを確定すればよい」と言い、その事実がおこったのは「偶然」として説明しまう。歴史家が聞いたら目をひんむいて怒りだしそうな記述に満ちあふれている。
その毒が面白い。私も随分前から読み始めているがなかなかページが進まないダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』(草思社)をその結論は「拍子抜け」し、「分かりきったことを書いただけの本なのではないか、という疑念を起こさせるのに十分」と書いている。また、「歴史の勉強は、現代を考察する参考になるといったことが言われるが、だから歴史を勉強しろと言えるほど役に立つかは疑問で、『面白いから勉強する、でいいではないか』」とまさに本音トーク全開だ。歴史学者でないから書ける内容ばかりである。
ただ、「古代ギリシャから現代までは一冊でおおずかみ」と帯にはマーケティングコピーが書いてあるが、信じない方がいい。脱線しまくりだし、事実(とされているもの)を並べて、筆者の感想を付け加えているので、ある程度、歴史的流れを知っている人でないと、とても筆者の歴史記述にはついていけないはずだ。
週刊誌のエッセイ集を読むイメージで、読めば面白く読めるし、世界史に関するいろんな本(それもあまり難しくない本)や映画が紹介されているので、ブックガイド、映画ガイドとしても使える。
日本語の電子ブックも増えて来たようなので、ロンドンでも困ることはなくなって来そうですね。
この内容では買わないほうがよさそうです。世界史入門書ならもっといいものがあるはずです。自宅にあるものをまずじっくり読むことにします。