その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

福田 ますみ 『でっちあげ―福岡「殺人教師」事件の真相』 (新潮文庫、2009年)

2016-06-22 21:00:00 | 


 学校関係者必読の優れたルポルタージュである。

 福岡県の小学校教師が、モンスターペアレンツの執拗な攻撃と、優柔不断な学校管理者(校長、副校長)の対応、そして便乗マスコミによって、「殺人教師」呼ばわりをされて、社会的バッシングの上に停職6か月という処分を受ける。だが、裁判の過程で、その当該の親の証言は、ほとんどがでっちあげであったことが明らかにされる。筆者は、その事件を丁寧に追い、親、教師、管理者、マスコミ、弁護士が、どう動いたかをレポートし、個々の問題や暴走する社会の構造を明らかにしていく。

 結果論かもしれないが、あらゆる登場人物に問題がある。やくざの言いがかりのような主張を公然と展開する親(この人は完全に「病気」としか言いようがない)、言うべきことを主張できず、言ってもないことやってもないことを認める優柔不断な当該教師、親の言うなりにとにかく丸く収めようとする学校管理者、話題性のみでろくな確認取材すらしないで記事化するマスコミなど。ありえないようなことが現実に起きているのが何より怖い。

 中でも私が一番問題ありと思ったのは、被害者とでもいうべき教師本人とその管理者たちである。

 諸悪の根源はモンスターペアレンツだが、この親のような人たち(世の中的には「クレーマー」と呼ばれる)は、世の中一定数必ず存在するので、存在がなくなることはないだろう。騒ぎになりそうな話題に飛びつき炎上を煽るというマスコミの行動原理も変わることがないだろう。だから、教師やその管理者は、そうしたリスクに備え、現実にリスクが生じた際にはコントロールしなくてはいけない。この本を読んでいると、学校関係者のあまりの無防備さにイラついてくる。

 今の教師や学校管理者には、これまで求められなかったであろう危機管理という「スキル」を身に着ける必要がある。これは、いわゆる教育に適する資質とは正反対のものかもしれない。だが、学校はもう「教育」の場としての理想郷ではない。教師とは別に組織管理者を置く方法もあるだろう。この手の「病気」の親対応で、教師が時間を費やすのはあまりにももったいない。だが、そうした方策が講じられないなら、先生たちが武装するしかない。

 この本を読んで、先生たちは自分ならどう行動するかを考えてほしい。
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