ご存じ池波正太郎著・鬼平犯科帳、第21巻から最終の24巻までやっと読む機会を得た・・・TVでは既にこのシリーズの放映は終わっているが、時代劇専門チャンネルやBSフジなどで再び放送されている。
先日から第21巻の短編を読み始めたが、読み進むうちに鬼平こと長谷川平蔵の話ぶり、行動などの描写からどうしても、ドラマで演じている二代目中村吉右衛門さんの顔が浮かんでくる。その父・八代目松本幸四郎さんの鬼平も良かったが、やはり吉右衛門さんの方が当方にはすっきり来てしまう。
そのほか、「佐嶋を呼べ」と平蔵が言うと、与力の佐嶋忠介の高橋悦史さんの顔が浮かんでくる。さらに同心の酒井祐助は篠田三郎さんや柴俊夫さんよりも勝野洋さんの方がキマっており、沢田小平次は、真田健一郎さんだね。
密偵の登場する場面では、相模の彦十の三代目江戸家猫八さんは味わいがあって良かった。やはり彦十となると三代目の猫八さんがいいですね・・・ハマっています。そのほか、おまさの梶芽衣子さん、小房の粂八の蟹江敬三さん、伊三次の三浦浩一さん、大滝の五郎蔵の綿引勝彦さんとピタリとくる役柄の名優揃い・・・その人たちの顔が次々と小説の中に出てくるから、さらに面白さも百倍と言ったところである。
なお、この小説の14巻「五月闇」編で、あの密偵“伊三次”が昔の仲間の“強矢(すねや)の伊佐蔵”に胸を刺されて死亡する。当時、「なぜ、伊三次を殺したのか」と作者などに問い合わせが殺到したらしい。それほど、多くの熱心な読者に支えられていることで、著者も当時「作者冥利に尽きる」と話されていたとのこと。
ところで、この小説の中では、うさぎの忠吾こと木村忠吾がとてもいい役回りをしながら登場している・・読んでいてホッとする。この登場人物により、面白さが膨らみこの小説がシリーズ化している一因と思える。
その木村忠吾が登場すると、また、何か仕出かすのではないか、何か失敗をするのではないか、ほっ、ほっー今度はうまく立ち回ったのか、いえ、いえ何か仕出かしている・・・などと心配しながら読んでいると、忠吾役の尾美としのりさんの悲しそうな顔が読者である当方たちの眼の前に真っ先に出てくるのである。
それほど、一人ひとりの人物描写がこの上なく精緻に書き込まれているから、多くの読者の心を捉えて離さないものと思われる。
火付盗賊改方同心・木村忠吾が主に登場する「麻布一本松」編が第21巻にある。去年の暮れからなじみの深い上野・浅草や深川の見廻りから、盛り場もない大名や武家屋敷や寺院の多い麻布方面の市中見廻りに担当替えがあり、翌年の1月中旬のある日「ここは面白くない、何もかも面白くない」とブツブツ言いながら浪人姿に変装して市中見廻りをしている。
吾妻下駄を履いて、小石を蹴っていると3度目に蹴った小石が向こうからやって来る男の脛にあたった。その男は浪人で、背丈も高く、見るからに屈強の面がまえだ。
この日、このとき、この場所で、忠吾が三つ目の小石を蹴らなかったら、事件(こと)は起こらなかっただろう・・・と、説明書きで物語が進む。
まさにこの一件から、忠吾にとっては穴があったら入りたい、神妙な気持ちになってしまう楽しい話が進んでいく。やはり、何か仕出かさなければと心配している読者の気持ちも尻目に・・・これが忠吾の生き様である。
「忠吾。今日は、さぞ残念であったろうな」
「・・・・・?」
「一本松の茶店で、お前を待ちこがれていた人にあったぞ」
忠吾は驚倒(きょうとう)した。
いったい、これは、どうしたわけなのだ・・・。
「その人をな、連れて来てやったぞ。どうだ、うれしいか?」
「う・・・・?」
「さ、ここへまいられよ」
平蔵にうながされて、忠吾の顔をのぞき込んだのは、ほかならぬ市口又十郎である。
愕然となった忠吾の眼の前が真暗になった。
木村忠吾は、気を失った。
と、この話は終わるのである。
三つ目の小石を蹴って当たった浪人が、又十郎であるが、忠吾はむしゃくしゃしていたので勢いのままその又十郎が刀を抜く素振りをすると同時に懐に飛び込み、思い切って股間を蹴りあげて逃げたのである。翌日、その有様を見ていた又十郎の知り合いの女が、市中見回りをしながら一本松の茶店に立ち寄った忠吾にうまく言い寄って、明後日の今時分にこの茶店で今一度お会いしたいと約束を交わした・・・実はその時、忠吾をうまくおびき寄せて又十郎に少々痛めつけるよう手筈を整えていた。
すっかり、色っぽい女・お弓に熱を上げていたが、どうも様子がおかしいこの忠吾に、小石事件の翌日、平蔵が忠吾の担当区域の麻布方面の市中見回りに忠吾を伴って出向いたところ、平蔵によって捕えられ獄門に送られた盗人仲間の屈強の3人の浪人に平蔵と忠吾が襲われ、忠吾が太ももを切られるのである。
これで、忠吾は身動きのできない状態になり、医師の手当てで床に伏せらざるを得ないが、どうしてもその翌日その女に会いたくて焦るがどうにもならない・・・その狼狽ぶりから、平蔵は忠吾の見回り先をそれとなく探索し、あの一本松の茶店に立ち寄った。
そこで、知己を得ている市口又十郎とお弓に出会い、忠吾の浮かれぶりや小石事件をそれとなく掴み取り、平蔵が最後に忠吾にお灸をすえるのである・・・・。
この話は、木村忠吾のすべてが出ており、とても愉快に楽しく読むことができた。
さすが、これこそが池波小説の神髄である・・・・(夫)
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先日から第21巻の短編を読み始めたが、読み進むうちに鬼平こと長谷川平蔵の話ぶり、行動などの描写からどうしても、ドラマで演じている二代目中村吉右衛門さんの顔が浮かんでくる。その父・八代目松本幸四郎さんの鬼平も良かったが、やはり吉右衛門さんの方が当方にはすっきり来てしまう。
そのほか、「佐嶋を呼べ」と平蔵が言うと、与力の佐嶋忠介の高橋悦史さんの顔が浮かんでくる。さらに同心の酒井祐助は篠田三郎さんや柴俊夫さんよりも勝野洋さんの方がキマっており、沢田小平次は、真田健一郎さんだね。
密偵の登場する場面では、相模の彦十の三代目江戸家猫八さんは味わいがあって良かった。やはり彦十となると三代目の猫八さんがいいですね・・・ハマっています。そのほか、おまさの梶芽衣子さん、小房の粂八の蟹江敬三さん、伊三次の三浦浩一さん、大滝の五郎蔵の綿引勝彦さんとピタリとくる役柄の名優揃い・・・その人たちの顔が次々と小説の中に出てくるから、さらに面白さも百倍と言ったところである。
なお、この小説の14巻「五月闇」編で、あの密偵“伊三次”が昔の仲間の“強矢(すねや)の伊佐蔵”に胸を刺されて死亡する。当時、「なぜ、伊三次を殺したのか」と作者などに問い合わせが殺到したらしい。それほど、多くの熱心な読者に支えられていることで、著者も当時「作者冥利に尽きる」と話されていたとのこと。
ところで、この小説の中では、うさぎの忠吾こと木村忠吾がとてもいい役回りをしながら登場している・・読んでいてホッとする。この登場人物により、面白さが膨らみこの小説がシリーズ化している一因と思える。
その木村忠吾が登場すると、また、何か仕出かすのではないか、何か失敗をするのではないか、ほっ、ほっー今度はうまく立ち回ったのか、いえ、いえ何か仕出かしている・・・などと心配しながら読んでいると、忠吾役の尾美としのりさんの悲しそうな顔が読者である当方たちの眼の前に真っ先に出てくるのである。
それほど、一人ひとりの人物描写がこの上なく精緻に書き込まれているから、多くの読者の心を捉えて離さないものと思われる。
火付盗賊改方同心・木村忠吾が主に登場する「麻布一本松」編が第21巻にある。去年の暮れからなじみの深い上野・浅草や深川の見廻りから、盛り場もない大名や武家屋敷や寺院の多い麻布方面の市中見廻りに担当替えがあり、翌年の1月中旬のある日「ここは面白くない、何もかも面白くない」とブツブツ言いながら浪人姿に変装して市中見廻りをしている。
吾妻下駄を履いて、小石を蹴っていると3度目に蹴った小石が向こうからやって来る男の脛にあたった。その男は浪人で、背丈も高く、見るからに屈強の面がまえだ。
この日、このとき、この場所で、忠吾が三つ目の小石を蹴らなかったら、事件(こと)は起こらなかっただろう・・・と、説明書きで物語が進む。
まさにこの一件から、忠吾にとっては穴があったら入りたい、神妙な気持ちになってしまう楽しい話が進んでいく。やはり、何か仕出かさなければと心配している読者の気持ちも尻目に・・・これが忠吾の生き様である。
「忠吾。今日は、さぞ残念であったろうな」
「・・・・・?」
「一本松の茶店で、お前を待ちこがれていた人にあったぞ」
忠吾は驚倒(きょうとう)した。
いったい、これは、どうしたわけなのだ・・・。
「その人をな、連れて来てやったぞ。どうだ、うれしいか?」
「う・・・・?」
「さ、ここへまいられよ」
平蔵にうながされて、忠吾の顔をのぞき込んだのは、ほかならぬ市口又十郎である。
愕然となった忠吾の眼の前が真暗になった。
木村忠吾は、気を失った。
と、この話は終わるのである。
三つ目の小石を蹴って当たった浪人が、又十郎であるが、忠吾はむしゃくしゃしていたので勢いのままその又十郎が刀を抜く素振りをすると同時に懐に飛び込み、思い切って股間を蹴りあげて逃げたのである。翌日、その有様を見ていた又十郎の知り合いの女が、市中見回りをしながら一本松の茶店に立ち寄った忠吾にうまく言い寄って、明後日の今時分にこの茶店で今一度お会いしたいと約束を交わした・・・実はその時、忠吾をうまくおびき寄せて又十郎に少々痛めつけるよう手筈を整えていた。
すっかり、色っぽい女・お弓に熱を上げていたが、どうも様子がおかしいこの忠吾に、小石事件の翌日、平蔵が忠吾の担当区域の麻布方面の市中見回りに忠吾を伴って出向いたところ、平蔵によって捕えられ獄門に送られた盗人仲間の屈強の3人の浪人に平蔵と忠吾が襲われ、忠吾が太ももを切られるのである。
これで、忠吾は身動きのできない状態になり、医師の手当てで床に伏せらざるを得ないが、どうしてもその翌日その女に会いたくて焦るがどうにもならない・・・その狼狽ぶりから、平蔵は忠吾の見回り先をそれとなく探索し、あの一本松の茶店に立ち寄った。
そこで、知己を得ている市口又十郎とお弓に出会い、忠吾の浮かれぶりや小石事件をそれとなく掴み取り、平蔵が最後に忠吾にお灸をすえるのである・・・・。
この話は、木村忠吾のすべてが出ており、とても愉快に楽しく読むことができた。
さすが、これこそが池波小説の神髄である・・・・(夫)
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