アントンK「趣味の履歴簿」

趣味としている音楽・鉄道を中心に気ままに綴る独断と偏見のブログです。

渾身のベートーヴェン~上岡/新日本フィル

2018-10-07 22:00:00 | 音楽/芸術

10月に入り、いよいよ演奏会の波が押し寄せる。まずは新日本フィルのルビー公演、ベートーヴェンプログラムから開始される。

ベートーヴェンの交響曲第4番、第7番、それにピアノ協奏曲第2番が入った贅沢なプログラムだ。ベト4とベト7の組み合わせの演奏会と言えば、アントンKは、昔初めて聴いたカール・ベーム指揮ウィーン・フィルの演奏会を思い出してしまう。1975年3月、NHKホールで聴いたのがこの演奏会で、海外のオーケストラを目の前で鑑賞したのは、この時が初めてだった。まだ駆け出しのアントンKだから、演奏内容など印象に残るものではなくなってしまったが、それまで、LPレコードでしか聴けなかった音楽が、同じ空間で今鳴っていることの衝撃を今でも忘れることはできない。ただただ毎日のようにレコードに針を落とし、スピーカーから出てきた音楽と同じように聴こえる実演奏に驚嘆し感激したのだ。ベームと言えば、当時は日本でも人気の指揮者であり、カラヤンかベームか、などと比較され話題にされた時代。しかしこの時点では、アントンKにはその違いさえ判らなかったはずだし、もちろん朝比奈隆の演奏とも出会ってはいない。

トスカニーニやフルトヴェングラーたちの伝統的とも言える楽曲の解釈の流れを、自然に受け入れて当たり前のように聴いて、ある意味固定観念が確立されてしまった楽曲達だが、今回聴いた上岡のベト4、ベト7は、そんな過去の伝統的演奏などにとらわれず、原点に立ち返って一から構築した演奏だった。今回アントンKは、定演の初日を聴いたが、あまりにも衝撃が大きかったので我慢できず、茅ケ崎公演(定演と同じプログラム)まで出向いてもう一度鑑賞してきた。

もちろん、上岡敏之/新日本フィルによるベートーヴェンは初めて聴く訳ではなく、第9をはじめ第1や第5「運命」も実績がある。その流れの演奏スタイルに、今回もなるだろうという予想は当然できるが、今回の第4、そして第7番については、さらにきめ細かく深くなっているように感じられた。個々に書いていくと途方もなくなるので、全体に言えることを書き留めておきたい。

想定内だったのが、どちらの演奏も基本はインテンポで突き進んでいくこと。快速特急のように、さわやかな風が吹いているがごとく全力前進していく。しかしこのテンポ感で、オケの各声部の細やかな表情付けが具体的に行われておりまずは驚嘆した。木管楽器群の主張は最良で、ソロパートの心のこもり切った音色は、もうすでにヨーロッパオケの香りがしている。ここぞの時の金管楽器も上岡氏の指示を受けてベストだった。また今回は、ティンパニのアタックが抜群であり、第7の第1楽章展開部の頂点やコーダ、また第4楽章の中間部から終結部までのパフォーマンスは、聴いていて心が躍り出し、気持ちが掻き立てられるのがわかったくらい。が、何といってもここで忘れられないのは、弦楽器群の演奏。もうパフォーマンスと言っても過言ではないだろう。ご存知コンマス崔文洙氏率いる弦楽器群のことだが、今回の演奏の立役者は間違いなく彼等だろう。あんなに細かく繊細な粒に様々な表情があり、味わいがあり、哀しさや憂いもある。一つのフレーズ内でも、響きの表情が変わり、今まで聴いたことのない雰囲気に楽曲の色が変わる。それは音符の長さの統一感の徹底であり、スタッカート、レガート、テヌートといった奏法が綺麗に徹底的に統一されていたのだ。しかもあのテンポでそろっていたから、アントンKはこの時点でぶっ飛んでしまったのだ。演奏会が終演しても、またすぐにもう一回聴きたいと思わせた一番の要因だった。あそこまで仕上げることは、素人目で見てもこの上ない努力が必要なことくらいは理解できたが、限られた時間の中、よくぞここまで!との思いが鑑賞中に何度も頭の中を駆け巡った。実際、初日の演奏に対し、最終の茅ケ崎公演の方がさらに大胆に鋭く演奏され完成度が上がっていたように感じたのである。これには、指揮者上岡氏のもと、コンマスの崔氏の並々ならぬ努力があってこその成果なのだと思う。それは彼の舞台における立ち姿を見れば、誰でも理解することだろう。ここまで指揮者を理解し、オーケストラ全体をけん引しているコンマスはいるのだろうか。少ない体験でしかないが、アントンKは今までベルリン・フィルやコンセルトヘボウで鑑賞した時に一部感じたくらい。他の日本のオーケストラでは皆無なのだ。

崔氏の奏でる音色は独特であり、目隠ししていてもわかるくらいの艶やかで情感のある音色。彼のVnから最低音のDbまで、その精神性をはびこらせるため、圧倒的パフォーマンスを我々に披露するのだ。アントンKがいつも感動するポイントでもあるが、今回のベト4やベト7では最高潮に達してしまい目頭が熱くなった。世界の一流と言われるオーケストラを聴くと、弦楽器奏者は身体全体を使って奏していることがよくわかるが、崔氏の奏法がまさにそれで、聴覚的にはもちろん視覚的にも心を熱くするのだ。演奏中、彼が反り返り、中腰になると、いよいよ張りのある艶やかな分厚い音色がホールを包み込み、オケ全体がギヤチェンジして上岡氏に食らいついていくかのように感じる。上岡敏之氏と新日本フィル、ベストマッチと以前書いたが、これはどうやらまだ現在進行形のようだ。今後、まだ多くの演奏会が残されているから、すべて自分に取り込んで消化したくなるというもの。一期一会の特別な演奏会を期待して待ちたい。(続く)

新日本フィルハーモニー交響楽団 第17回定期演奏会ルビー

10月5日  すみだトリフォニーホール

ベートーヴェン  交響曲第4番 変ロ長調 OP60

ベートーヴェン  ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調  OP19

ベートーヴェン  交響曲第7番 イ長調  OP92

アンコール

メンデルスゾーン 交響曲第4番  イ長調「イタリア」~第4楽章

10月7日  茅ケ崎移民文化会館 大ホール

茅ケ崎特別演奏会

同上 プログラム

 指揮    上岡 敏之

ピアノ    田部 京子

コンマス  崔 文洙

 

 

 

 



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