アントンK「趣味の履歴簿」

趣味としている音楽・鉄道を中心に気ままに綴る独断と偏見のブログです。

第3回 大ブルックナー展

2015-12-05 22:00:00 | 音楽/芸術

今年3回目となる井上道義/大阪フィルによる「大ブルックナー展」に出向いた。

第1回目が、今年の1月の第8番、第2回目は6月に第7番、そして今回の第4番「ロマンティック」と、今年は3回のチクルスだが、来年からはそのペースも少し落ちるらしい。それはとにかく、回を追うごとにこのペアの響きが安定し、ブルックナー演奏については、何と言うか方向性が定まってきているように思えて仕方がない。それは、明らかに朝比奈時代の大阪フィルとは違い、より繊細な表現力が備わったと思う。これは指揮者井上氏によるところが大きいのだろうが、さらに5年・10年とさらに進化を遂げて我々ファンを魅了してほしい。

今回は、プログラム前半に戦後70年ということで、北欧の作曲家であるアールトネンの交響曲第2番「HOROSHIMA」が演奏された。交響曲ということだが、ちょうどシベリウスの第7のように全てが繋がって演奏される。広島に原爆投下されたような描写や、悲しみに溢れたイメージの音楽であったが、曲の締めくくりは、明るく希望の光が差したような構成になっていて救われる。やはりどことなくシベリウスの影響を受けているような響きも散見できた。

後半はブルックナー。今日は、第4番「ロマンティック」が演奏された。第1楽章の出の部分の弦楽器の霧が普通より大きく奏され(pp指定)安心する。そこへHrnのソロで第1主題が始まるが、何て美しい音色だろうか。アントンKの好みからすれば、もう少し主題の符点をはっきり吹いてほしいところだが、井上氏のテンポ感が素晴らしく心底この部分だけでブルックナーの森に入ってしまった。トゥッティの箇所では、全体的にはPosの威力が凄まじく「大フィルここにあり」と感じたが、今日の演奏では、特に低弦が物を言っており、重心が低く楽曲にマッチした演奏だったと言えるだろうか。

全体を通して井上氏の解釈は、ゆっくり目で落ち着いた演奏。ノーヴァク版使用だから、場合によってはアクセルを踏むことがあるが、これも的を得ていて安心できる。フォルテッシモでオケ全体が膨れ上がり、聴こえて欲しいフレーズがかき消されて聴こえない場合がままあるものだが、今日の演奏ではそんな箇所もなく、こんなところからも井上氏の楽曲に対する深い解釈が理解できる。(例をあげると、フィナーレの175~177のTpのド-レ・ミx3)

今回のブル4で一番印象的だったのは、第3楽章のスケルツォ。主部のテンポは誰よりも遅く、オケ全体に散りばめた音符一つ一つが目で見えるようだった。このテンポだから、当然のごとくクレッシェンドの起伏は強調され、一小節ごとに音楽が大きく膨れ上がって行く様が圧巻であった。そして中間部のトリオでは、何と優しい穏やかな雰囲気なのだろう。ここでこんな気持ちになった演奏は初めてだった。木管楽器群も健闘していたからこそだが、ObやFlの音色は特筆ものだったと書いておく。ここでも、先ほども書いた総奏の中での聴こえて欲しいフレーズは完璧に伝わってきた。

最後になったが、何より嬉しかったのは、指揮者井上道義氏が、さらに元気になっていたことだった。指揮振りも以前より大ぶりに見えたし、終演後のマイクパフォーマンスもあり、聴衆を笑わせていたが、今後ますますこのチクルスに期待して待ちたいと思う。

アールトネン  交響曲第2番「HIROSHIMA」

ブルックナー  交響曲第4番 変ホ長調「ロマンティック」 (ノーヴァク版)

2015-12-05   15:00

兵庫県立文化センター  KOBELCO大ホール