風雅遁走!(ふうがとんそう)

引っ越し版!フーガは遁走曲と訳される。いったい何処へ逃げると言うのか? また、風雅は詩歌の道のことであるという。

「哭きおんな」が涙にくれる時

2005-07-12 21:25:00 | シネマに溺れる
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最近、中国映画を見続けている。そもそも「オペレッタ狸御殿」に出演したチャン・ツィイーってもっと可愛くなかったかなぁと『初恋のきた道』(我的父親母親/The Road Home/チャン・イーモウ監督/2000年/米中合作/第50回ベルリン国際映画祭銀熊賞受賞)をレンタルして借りてきたことにはじまる。

この映画自体は、ストーリーとしてもシンプルな映画だが、その農村風景、チャン・ツィイーの可憐で一途な演技が涙をさそい(実質デビュー作)、子ども時代にこの映画を見たら惚れ込んでしまうなと思わせるものだった。中国製映画は、日本でも映画が黄金期だった昭和30年代の名作を連想させる。そこに描かれる農村風景もそういう意味で懐かしさを呼び起こす。
そして、この映画の初々しいチャン・ツィイーは素晴らしい。丁度、二十歳の(とはいえおさげ髪のせいか十代にしか見えない。役柄は十八歳の設定)女優としても、ひとりのおんなとしても素晴らしい時期を記録したものとなっていると感じたほどだ(評価★★★★)。→http://www.sonypictures.jp/archive/movie/roadhome/

さて、そして見たのだ。『涙女』(哭泣的女人/CRY WOMAN/リュウ・ビンジェン監督/2002年)を。この作品は厳密には中国映画ではないが(カナダ+フランス+韓国合作)、中国の「涙女」つまり「哭き女」を題材にしたものだ(監督は中国人)。北京でポルノも含めたDVDを地下販売(とはいえ路上だ)しているひとりのおんなグイの猥雑なほどの不幸な半生を描いたものだ。グイの夫は監獄入り、その夫が賭け麻雀三昧のあげく怪我を負わせた被害者から治療費7千元を請求され、あげく公安警察対策で借りた幼子の親は蒸発、そのまま子どもを押しつけられた不運なおんなだ。それを元の愛人(葬儀屋を営んでいる)ヨーミンからすすめられた「哭き女」をやることで、1万元稼ぎ出すといった話だ。
映画の中で

「生きている間は、公安。死んでからはオレたちだ」

という面白いセリフがあった。

「哭き女」は、葬儀の際に、その嘆きと泣きっぷりで故人の徳の高さを称えると言うプロの女たちである。かってはこの国にもその風習はあり、アジアのみか、中南米にもおり、ボクはフリーダ・カーロを題材にした映画『フリーダ』に登場する「哭き女」に触発されて、「哭きおんな」という詩を書き、それこそ母の樹木葬の際に、霊前に捧げて朗読した。

さて、その映画の中の「哭き女」グイは、まるで天職を見い出したかのように売れっ子になり、治療費も、夫の保釈金もわずかの間に稼ぎ出した時、仕事上での相棒である元恋人にも捨てられ、治療費を払わねばならないはずの夫婦は離縁して上海へ流れ、夫は監獄からの脱走を試みて射殺される。三重の事件がいっぺんに起った時、「哭き女」は涙も湧いてこない。これから、おんなひとりで「哭き女」として生きて行かねばならない。「なんだかサバサバした気分だわ」。

そして、涙も涸れ果てたはずの「哭き女」は、他人の葬儀の席で突然込み上げてきた涙で、自らの不幸を嘆き、そしてはじめて自分のために大泣きするのだ。「哭き女」が、本当に泣く時、感動した人々がさしだす金の入った赤い祝儀袋を両手いっぱいにかかえて、「哭き女」は大泣きに哭く!

不幸と愛欲と事なかれ主義の生き方をしていた「哭き女」が本当に泣く時、「哭き女」は自分の本当の人生を知ると、この映画をまとめることができるかも知れない(評価★★★1/2)。→http://www.miraclevoice.co.jp/namida/


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