風雅遁走!(ふうがとんそう)

引っ越し版!フーガは遁走曲と訳される。いったい何処へ逃げると言うのか? また、風雅は詩歌の道のことであるという。

新山海経/チウ・アンション展

2007-02-10 23:58:31 | アート・文化
New_yama_umi_kyu_1 中村宏展の感想は「中村宏論」みたいな力の入れ方をしてしまったようだから、今日の記事は肩の力を抜く。それに、そういっては申し訳ないが、「中村宏/図画事件」を都現代美術館に見にいったおかげで、まるで拾い物のようにこの「新山海経/チウ・アンション展」も見ることができたのだ。チウ・アンションは昨年の上海ビエンナーレで、鮮明に世界の注目をあびたアーティストだと記憶している。上海まで見にいった訳ではないから(笑。残念なことに!)これは、飽くまでも上海ビエンナーレの紹介番組の記憶にしかすぎないのだが……。

 さて、実は『山海経(せんがいきょう)』は、むかし翻訳本を手に入れてその珍奇さにいたく打たれた中国の古典文学である。本草学というものがあるが、それはいまでいう博物誌のような百科事典だ。山海の生物や、草木をコレクションしたこれまた「図鑑」だと言っていい。そして、『山海経』は、想像上の動物をコレクションした奇書である。キマイラの怪物たちが、仙教とともにコレクションされているという知られざる世にも珍しい書物なのであった。

 チウ・アンションはビデオ・アニメーションをその表現方法とするアーティストだ。そして、今回ボクが見ることができた『新山海経』は、その中国の古典を下敷きにしたとても皮肉の込められたアニメーション作品なのである。そして、この都現代美術館の地下の一室のみで開催されている「新山海経/チウ・アンション展」は、日本におけるチウ・アンションのはじめての紹介的なささやかなビデオ上映会である。
 現在、評判の松本大洋などにくらべれば絵も稚拙だが、その現代文明批判の比喩は分かりやすい。まさしく、現在の世界の情勢が古典の奇書に置き換えられているのだ。そして、その動く水墨画風な表現がいい。さらに、言えばその作品につけられたアンビエント風のテーマ曲がリリカルで、素晴らしい(音楽はチウの協力者であるようだ)。ラストクレジットで、ささやくようにくり返されるテーマ曲にボクは慄然としてしまった。「世界の終わりの音楽」とは、かくなるものかとさえ考えてしまった。
 この作品は現代中国のあえて言えば、ポスト天安門以後のネット世代のアートだという点でも注目すべき作品にボクには思えた。

 さらに言えば、まったく知られていないのだが、この「新山海経/チウ・アンション展」は無料で見れるのである! 木場公園の隣にある東京都現代美術館まで足を運ぶなら、「中村宏/図画事件」もむろんおすすめだが、時間をとってこの「新山海経/チウ・アンション展」も御覧になることをお勧めする。

 (会期は2007年4月1日まで。なお、『新山海経』は、30分15秒の大作。アニメ『雁南』9分12秒。ビデオ作品『江南錯』12分45秒もモニターで上映されています。)
公式HP→http://www.mot-art-museum.jp/kikaku/88/



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