大宅壮一賞をとった『空白の五マイル』の角幡唯介氏がものした本だが、最初はキワモノだと思った。新聞広告だったか、最初にこの本の存在を知ったときに、私には関係ない、埒外だと思い、完全に無視した。まあ世間一般にいわれているおふざけ系、川口浩探検隊なみの(比喩が古すぎる!?)猿芝居本だと思った。しかし、ある書評を読んで、意外にまじめに“雪男”を採り上げているということを知った。それじゃあ、読んでみようかと手に取ったしだい。
この本の始まりは、いかにもこの著者のまじめさが出ていて、“雪男”を採り上げるまでにいたった経緯(いきさつ)を事細かに書き、そして関わることになった言い訳を述べ立てている。“雪男”から連想するいかがわしさを自分のなかで払拭できないままに、この仕事に取り組んだからなのだろうけど、周囲の目からして、私の最初の反応と同じはずで、その偏見はいかんともしがたい。
しかし、ご本人は“雪男”の過去の文献を調べ上げ、目撃者に会って話を聞くうちに、これは「いる」と確信していくようになる。目撃者のなかには、有名な登山家も出てくる。8000m峰6座を無酸素登頂している小西浩文氏(マナスルで消息を絶った小西政継ではないので注意)や、あの田部井淳子さん。そして新田次郎の『栄光の岩壁』のモデルとなった芳野満彦氏(残念ながら今年の2月に亡くなった)。各氏とも間違いなく、それであると主張している。しかし、高高度での出来事なので、どうしても高度障害による幻覚や見間違いの可能性は否定できない。
この本に登場してくるのは、有名な登山家ばかりではなく、76年にフィリピン、ルバング島で旧日本兵、小野田寛郎さんを発見した冒険家の鈴木紀夫氏も登場する。雪男探しにのめりこんで、最後は捜索中に雪崩に遭って亡くなった人だ。この鈴木氏の捜索ポイントを引き継ぎ、2008年にイエティ・プロジェクト・ジャパンの高橋好輝氏が雪男捜索隊を編成する。著者はこの捜索隊の一員として、ヒマラヤ山中に赴くのだ。
以下捜索の結果なので、注意! この本を読もうと思う方は、読むべからず。
結果は、小さな足跡だけの発見で終わってしまったのだが、驚くべきことに著者はカトマンズからまた現場に引き返すんだよね。その執念、行動力たるや、常人をはるかに超えている。ただ悲しいかな、そこでも、成果を上げることはできなかった。
著者の結論は、「いる」からどんどん後退していき、存在に懐疑的になっていき、最初の「雪男」のイメージへと回帰していく。自分の目で確認できなければ、そうなるのは必然だろう。冷静に考えれば、いろいろな疑問が湧いてくる。それなりの個体数がなければ、雪男の子孫は存続しないだろうだし、逆にそれなりの個体数があるのであれば、もっと登山者ばかりでなく、ジモティたちに目撃されていてもおかしくない。それに雪の多く積もった高山でいったい何を食べているのだとなる。決定的な証拠として、写真や映像が出てこなければ、存在自体が霞みたいなものじゃないか。死体が発見されたり、生け捕りにできれば、パーフェクトだろうけど。
参考
空白の五マイルhttp://blog.goo.ne.jp/aim1122/d/20110521
脱出記http://blog.goo.ne.jp/aim1122/d/20110429
小西浩文の言葉http://musanso.sblo.jp/
雪男は向こうからやって来た (集英社文庫) | |
クリエーター情報なし | |
集英社 |