『動物たちの内なる生活 森林管理官が聴いた野生の声』ペーター・ヴォールレーベン 本田雅也訳(早川書房)
著者のドイツの森林管理官、ペーター・ヴォールレーベンさんの前作『樹木たちの知られざる生活』を読んだときの衝撃は大きかった。樹木同士でコミュニケーションをとっているなんて初耳だったし、読めば読むだけ驚かされる樹木のワンダーワールドが目の前に広がった。
そして第二弾の『動物たちの内なる生活』。書店の店頭で装丁が前作と雰囲気が似ていて、もしやと思って手にとるとやはり著者は同一人物であることがわかった。期待いっぱいでページをめくり始めたのだが、前作のような衝撃は正直なかった。
ただつまならないことはない。動物好き、自然が好きという人は、総じて興味深く読めるはずだ。
察するに著者は自然が大好きで、よく観察するし、疑問をもつと探究心がもたげてくるようだ。だから、ふだん疑問に思ったり、気になったりしたことはとことん調べてしまうのだろう。いまはネットで何でも調べられ、仮に求める情報がなくても、それに近い情報や周縁の情報には容易にたどりつける。そこから推理をはたらかせて、さらに調べていけば、真実に近づけるというものだ。そんな著者の探究心のおかげで、植物にかんしても、動物にかんしてもわれわれが知りたいと思ったこと、あるいはまったく知らなかったことを垣間見られるのだ。
この本の前半はさらさら読めて、とくにこれはというものは残念ながらなかったけれども、後半で興味深い小ネタをいくつも拾うことができた。
たとえば、冬眠前の動物たちの行動。ミツバチにいたっては、他の弱そうな集団の巣を襲って、蜜を奪うというから恐ろしい。冬を越すのに十分な食糧を得られなかったミツバチの最終手段がこれだという。大挙して押し寄せ、貯蔵庫から蜜を根こそぎもっていく。抵抗するその巣のミツバチは皆殺しだ。
お次はクマ。やはり十分なえさが得られないと、凶暴化するという。それは生きるために是が非でもえさを獲得したいから、人をも襲うことにもなるのだ。
さらに年老いたノロジカはいつも不機嫌というのは笑った。人間と同じなのか。理由はこうだ。メスであれば、年老いても子どもをなすことができるのだが、高齢ともなると、栄養をきちんと摂取できなくなり、体が衰えてくる。そうすると、自分の子どもに栄養満点の乳を与えることができなくなり、当然子どもの成長はよくない。成長が悪ければ、俊敏に動けず肉食動物に狙われて一巻の終わりになってしまう。自らも思ったように動けないし、子どもたちは天敵に食べられてしまう。そりゃあ、不機嫌になってしまうわな。
『樹木』に続いて、この本もドイツや翻訳された各国でベストセラーになっているらしい。たしかに面白いネタが満載されていて、ちまたでは知られていない動物の生態が書かれている。個人的には『樹木』のほうが圧倒的に面白かったが、こちらも読んで損はないと思える。これからの秋の夜長にページを繰る楽しみを提供してくれる価値ある1冊だ。
参考:当ブログ 何も語らぬ樹木を代弁した『樹木たちの知られざる生活』
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