目指せ! 標高1122メートル

山の神にお供して歩きつづける、ある山のぼら~の記録。ネイチャー、冒険の本もとりあげるよ。

何も語らぬ樹木を代弁した『樹木たちの知られざる生活』

2017-07-02 | 山・ネイチャー・冒険・探検の本


『樹木たちの知られざる生活 森林管理官が聴いた森の声』ペーター・ヴォールレーベン著 長谷川圭訳(早川書房)

この本を最初に手にとったときは、大方自然保護の話で(実際そうなのだが)、フィトンチッドを大量に浴びた著者が、さわやかな森のエピソードを披露するエッセイが綴られているものと勝手に想像していた。しかし、それはいい意味でものの見事に裏切られた。

冒頭でもう、私はこの本のとりこになってしまった。樹木同士でネットワークがあるというのだ。それは主に地中の根によって行われる。手助けしているのは、まるでインターネットのように樹木の根と根の間を結ぶように張り巡らされている菌類の糸、つまり菌糸だ。そのネットワークを駆使して、同じ森の仲間が栄養不足に襲われれば、養分を分かち合うという。森の中の切り株が命を失わずにみずみずしいままに生き延びているのは、その好例だ。

ネットワークは地上にも存在する。害虫に葉を食われた樹木は香りを発する。その香りは、害虫の嫌いな香りであると同時に、森の仲間への危険信号でもある。香りを感知した樹木は、同じ香りを発して、害虫がたかってくるのを防ぐのだ。また樹冠で、お互いに光を分かち合っているというのも最新の研究でわかったという。競争よりも助け合いなのだ。我先に枝を伸ばし、葉を繁らせて、周囲の樹木を圧倒しようとするのではなく、共生できるように、樹木同士が調整しあっているのだ。

一方で、人工林はそうではないらしい。助け合いはないといっていい。我先に上へ上へと枝葉を伸ばし、光合成を行ってエネルギーを得、さらに成長を目指すらしい。早く育つけれども、寿命も短く、森の豊かな生態系を維持するものではない。同様に市街地に人工的に植えられる街路樹も助け合いはない、というかできないということだ。著者は、街路樹をストリートチルドレンと呼ぶ。間隔を置いて植樹されるから、ネットワークをつくれない。1本1本が孤立していて、害虫の被害を受けやすく、樹勢が衰えたとき、栄養を分けてくれるような仲間はいない。だから、ちょっとした環境の悪化でも、たちまち枯れてしまう。また周囲に樹木がないと、強風であっけなく倒れてしまう。隣に樹木があれば、枝と枝がぶつかりあって、風の衝撃を和らげることができるのだが、それができないのだ。

ほかにも、鳥や昆虫たちとの密接な関係など、なるほどとうならせられる知らなかった森の生態がいくつも書かれている。訳者あとがきにドイツでベストセラーと書かれていたが、読了したいまは、非常にわかる。こんなに刺激的な本はない。日本でもこれからブレイクするのでは、と私はにらんでいる。

樹木たちの知られざる生活: 森林管理官が聴いた森の声
クリエーター情報なし
早川書房
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