目指せ! 標高1122メートル

山の神にお供して歩きつづける、ある山のぼら~の記録。ネイチャー、冒険の本もとりあげるよ。

幻覚と幻聴に悩まされる日本アルプス縦断トレイルラン

2013-07-12 | 山・ネイチャー・冒険・探検の本

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『激走! 日本アルプス大縦断 密着、トランスジャパンアルプスレース 富山~静岡415Km』
NHKスペシャル取材班(集英社)

昨年のNHKスペシャルを視聴された方は多いだろう。身も心もまさしくボロボロになって走りきる、超過酷な山岳レース。日本海から太平洋まで415Kmも移動する。テレビでは描ききれなかったいろいろなエピソードや事件がここには書かれている。

この過酷なレースには、まず参加条件(書類選考)がある。本から抜粋しよう。

1.TJAR(トランスジャパンアルプスレース)本大会を想定した長時間の行動後、標高2000メートル以上の場所において、2回以上のビバーク体験があること。
2.コースタイム20時間以上の山岳トレイルコースを、コースタイムの55%以下のタイムで走りきれる体力と持久力を有すること。
3.フルマラソンを3時間20分以内あるいは100キロマラソンを10時間30分以内に完走できる体力を有すること。

すでにもうこれだけで、タフな人たちの大会であることがわかる。加えて、登山知識の試験があり、それをパスしなければエントリーできない。賞金・賞品のたぐいは一切ない。皆求道者なのだ。自分の限界への挑戦や深い達成感を求めて、この大会に参加している。

この本は、時系列で書かれているのだが、読み始めてまず、睡眠をとる時間がほとんどないということに驚かされる。優勝した望月選手は、5日間6時間24分でゴールしているが、この間の睡眠時間はなんと11時間だ。なかには、毎日5時間くらいの睡眠をとり、比較的余力を持ちながら完走した選手もいたが、ほとんどの選手は朦朧としながらのレースで、中には、幻覚や幻聴に悩まされた選手もいたようだ(ほとんど全員に近いのか)。職場の近所のコンビニに入ったときのチャイム音が耳の奥底で鳴り響いていたり、夜中にふと見た草むらに、女性の顔が浮かんでいたり、睡眠時間を削っての取材を敢行したディレクターまでもが、仁王立ちした金色の骸骨を見ている。

トップ選手と2番手グループの駆け引きが赤裸々に書かれているのも興味を引く。後ろから追われる望月選手のあせり、追い上げがなかなかタイム短縮につながらずにいらだつ2番手グループの面々。最後のクライマックスは、2番手グループにつけていた坂田選手が寝ずにゴールまでぶっ通しで走ることを誓うのだが……。

ほかにも読みどころは多い。選手一人ひとりのこのレースに参加するまでのいきさつや生活がまるでドラマのように展開されていく。ヘタなテレビドラマよりも劇的であり、事実は小説より奇なりとはよくいったものだ。レースが始まれば、幾多のトラブルが起こる。槍直下では、雷雨が待ち受けていたし、疲労でモノが二重に見えるようになった選手も出、いっぽうでは、極度の疲労から高山病を発症する選手も出た。

ゴールの制限時間を越え、大会が終わった後、正式には記録に残らない、つまりリタイア扱いになったのだが、それでも大会のルールにのっとって、ゴールを目指す男もいた。たった一人で、一日遅れで、ひたすらゴールを目指す。最後は、Twitterでそのことを知った人たちが深夜の海岸に集まり、感動のゴールとなった。

次回は、2014年に開催されるが、テレビや本の影響で知名度はグッと上がったはずで、参加者は倍増することだろう。いったいどんなドラマが待っているのだろう。

激走! 日本アルプス大縦断 密着、トランスジャパンアルプスレース富山~静岡415?
クリエーター情報なし
集英社
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