『私はなぜ80歳でエベレストを目指すのか』三浦雄一郎(小学館101新書)
80歳にしてエベレスト登頂を果たした三浦雄一郎さん。エベレスト出発前に上梓した本がこれ。ちょっと遺言めいた感じもあるが、無事成功してよかった。とにかく常人には考えられないほどストイックに、精進、努力した成果だ。40代ですでに体力なしで、ヒイヒイいっている自分とは雲泥の差を感じてしまう。
三浦さんは夢や目標を掲げたら、その実現に向けてやれることをすべてやる。その気概や、驚くほどの激しさだ。この本のなかにも、それは散見される。70代で狭心症に襲われ不整脈を抱え、心臓の手術をしているし、肥満から糖尿病も患っている。体は万全とはいえない。札幌のスキー場で骨盤と大腿骨の付け根を骨折するというアクシデントにも見舞われている。それでも、先をきちんと見る。その状態でもできることを考える。
そうした不屈の精神は、101歳で天寿を全うした父、敬三さんの影響が大きいようだ。敬三さんは何歳になっても挑戦を続けた。99歳でモンブラン山系でスキー滑降、100歳のときには三浦家4代でロッキーをスキー滑降している。常に工夫すれば、まだまだ自分を鍛えられること、挑戦は可能であることを目の前で示してくれた。
その遺伝子は、家族に引き継がれている。三浦家の3人のご子息は皆たくましい。三浦家流の教育は、海外で勉強させる。そのため皆独立心旺盛で、自ら考えて行動する人たちなのだ。家族の結束は固く、雄一郎氏の挑戦を陰に陽に支えている。
この本では、自らの落ちこぼれの生い立ちにも触れている。中学時代はクラスの落ちこぼれだったこと、スキーでオリンピックを目指したが、国内のスキー大会の運営に異議を唱えて、アマチュア界から追放されたこと。そして、なぜ冒険家になったのか。三浦雄一郎の原点が語られている。
最後に、三浦雄一郎さんの人柄や信念をもっともよく表している、彼の発した有名な言葉を紹介しよう。もうご存知の人も多いだろう。
「エベレストに行かせてくれないのなら、家出する! わしを探さんでくれ!」
駄々っ子のようで、ほほえましくもあり、どうしようもない頑固さがにじんでいる。
次はチョー・オユーで次男の豪太さんと山頂からスキーで直滑降しようとたくらんでいる。エベレスト以上に困難かつ危険が伴うと思えるのだが、体が動くかぎり挑戦しつづけるのだろう。この挑戦がまたいろいろな人を勇気づけ、元気にさせくれるはずだ。
私はなぜ80歳でエベレストを目指すのか (小学館101新書) | |
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