目指せ! 標高1122メートル

山の神にお供して歩きつづける、ある山のぼら~の記録。ネイチャー、冒険の本もとりあげるよ。

秘境ブータン

2012-02-10 | 山・ネイチャー・冒険・探検の本

Photo

昨年来日したブータン国王夫妻。新婚ほやほやのイケ面国王と王妃に注目が集まり、にわかにブータンが脚光を浴びたわけだが、私は以前からちょっと食指を伸ばしていた国である。以前、チベット仏教の研究者で長くブータンに滞在した今枝由郎氏の『ブータンに魅せられて』なぞを読み、それこそ、「秘境ブータン」に思いを馳せていた。

そして今回の来日で、ふと思い出した。梅棹忠夫先生の著作『山をたのしむ』で紹介されていた中尾佐助氏が、ブータンを学術調査し、紀行文をものしているはずであると。でもなあ、かなり古い本だったと記憶するから、活字の小さな読みにくい本だろうと勝手に決め込んでいてそのままになっていた。ところが、これを機に試しにネット検索してみると、岩波現代文庫として復刻していて、2011年9月に初版刊行となっていた。

さっそく手にする。巻頭の写真にまず目を奪われた。モノクロなのだが、かなり鮮明に写っている。ブータンの人々の表情、暮らしぶり、家の造作、とりまく自然……、へえ、とページをめくっていくと、あれれ、本文はどこからなのかと疑問符が沸き起こってくるほど、いつまでも写真ページが終わらないという贅沢なつくりになっている。

さて、本題へ。この学術調査行は、1958年にブータン国王の招きという体裁をとって行われた。国王の庇護のもとに実施されたので、比較的恵まれた調査行だったようだ。でも、それは大名旅行だったわけではなく、体力的にも、経済的にも苦労は絶えなかったようだ。4000メートル以上の高度を歩き続ける。寒さや山ヒルに襲われる。せっかく採取した植物を従者になくされる。従者に賃金を払うために装備を売る。苦難の連続だ。それでも、そんな困難をものともせずに快活にブータンの山中を旅していくのだ。

もともと植物学者である氏の目は、常に植物に注がれているといってもいい。貴重な高山植物の花々の写真がいくつも掲載されている。照葉樹林についての有名な論文をものしていることもあり、樹木についての造詣も深い。ひと目で樹木の名を言い当てるのは神業的だ。

ブータンの人々の生活文化についても触れていて、興味深い。出色は、乳製品に異常なほど執着する国民性についての記述だ。日本人が食生活で醤油に執着する以上に、とにかく、牛乳やら、チーズやらがないと、ブータン人は飢餓状態になる。面白いことに、調査に同行したブータン人たちは、乳製品を切らすと、皆落ち着かなくなるのだ。乳製品を手に入れるためには、どんな苦労も厭わず、何キロも離れた村まで買い求めに行くのだ。

秘境ブータン (岩波現代文庫)
クリエーター情報なし
岩波書店
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