不適切な表現に該当する恐れがある内容を一部非表示にしています

いわき鹿島の極楽蜻蛉庵

いわき市鹿島町の歴史と情報。
それに周辺の話題。
時折、プライベートも少々。

小説 カケス婆っぱ(5)

2013-02-28 06:35:23 | Weblog
                                             分類・文
     小説 カケス婆っぱ
           第31回 吉野せい賞奨励賞受賞             箱 崎  昭

 寺世話人だという男が2人、キクの側に来て頭を下げた。
「キクさん、私らは順周りで今年度いっぱいは寺の世話人という事になっています。お寺の行事やそれに関する諸々の仕事をする訳だけっどもキクさんがここに住んでみて不平不満が生じたら、何でも構わねえから先ず俺らに言ってくんちぇない。出来る限りの要望には応えるようにすっから」
 2人のうちでは年上らしい赤ら顔の男が言った。素顔なのか酒焼けした赭顔(あかかお)なのかキクには判断しかねた。
 更に赤ら顔の男が続ける。
「それと明日にでも見ると分かっけども階段側の墓の一番隅っこに猫の額ほどの空地があるんです。もともと墓地として使う積りであるんだけっども新しい檀家が出来ねえ限り、畑として好きなように使っていいかんね。これはもうの人らの了解済みだからない。うん」
 自分で言って自分で首を縦に振り納得してみせた。
「まだ仏様は入っていねえから安心して耕せっから」
 もう一人の若い方が悪戯っぽい目で笑うと、赤ら顔の男とキクも釣られて笑った。 
 隣りに座っている和起の側にも女連中が交互に寄ってきては何か聞いたり冗談を言って笑い声が絶えない。
           
                   《現在の蔵福寺(遠景)》 
 どのくらいの時間が経過したのであろうか、区長が頃合を見計らって興の中に言葉を差し込んだ。
「それでは時間も大分経っていることだしキクさんたちも疲れていると思いますので、この辺でお開きにしたいと思いますがどうだっぺね」
 盛り上がっている座から反論が出た。
「なんだっぺ、まだ酒は残ってんだぞー」早くも出来上がった男が茶々を入れたものだから皆がどっと哄笑(おおわらい)した。
 拍手が起こったが、それは区長の締めの挨拶に対しての応えだったから全員が立ち上がり片付けに取り掛かった。
 男女が手分けして行われ座卓の積み重ねや戸締りは男で、座布団を部屋の隅に運んだり食器類をキクの住まいとなる部屋の台所まで持って行き洗うのは女の仕事になっている。
 村に何かある度に行われる暗黙の作業手順で手際が良かった。
 寺から1人去り2人去りして結局、最後はキクと和起だけになってしまった。 
 集会の華やかさから一転して、その反動が今までに体験したことのないような静寂さだけが残った。
 キクと和起が居住する場所は本堂裏側の一角にある八畳一間で、本堂とは壁で遮られているので出入り口の階段は別になっていた。
 部屋の横に台所と押入れがあって、八畳の中央には畳半分ほどの囲炉裏が据えられている。                                  (続)
              
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 小説 カケス婆っぱ(4) | トップ | 小説 カケス婆っぱ(6) »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

Weblog」カテゴリの最新記事