■Paradise And Lunch / Ry Cooder (Reprise)
今では常識となっているライ・クーダーの幅広い音楽性、その最初の結実が1974年春に発売された、通算4作目となる本日ご紹介のアルバムだと言われています。
A-1 Tamp 'Em Up Solid
A-2 Tattler / おしゃべり屋
A-3 Married Man's A Fool / 結婚したらお終いさ
A-4 Jesus On The Mainline
A-5 It's All Over Now
B-1 Medley:Fool For A Cigarette / Feelin' Good
B-2 If Walls Could Talk
B-3 Mexican Divorce / 恋するメキシカン
B-4 Ditty Wah Ditty
演じているのはこれまでどおり、フォークブルースやゴスペル、伝承歌や埋もれたジャズソング等々をベースにしながらも、そこに今回はメキシコ音楽のスパイスをたっぷり加味したという、所謂サウス・オブ・ザ・ボーダー!
しかも遠くカリブ海の潮の香りも漂って♪♪~♪
ですから参加メンバーもクリス・エスリッジ(b)、ラス・タイトルマン(b,vo)、ジム・ケルトナー(ds)、ミルト・ホランド(per) の常連組に加え、ジャズピアノの基本スタイルを確立させた巨匠アール・ハインズ(p)、同じくジャズ系のセッションミュージャンとして第一線のジョージ・ボハノン(tb)、プラス・ジョンソン(sax)、レッド・カレンダー(b)、ニューオリンズ系R&Bからはロニー・バロン(p,org)、さらにアルバム全体の色合いを強く印象付けたゴスペルコーラス隊としてボビー・キング(vo)、ジーン・マムフォード(vo) 等々が適材適所に配されていますから、ライ・クーダーのギターもアコースティック&エレキで十八番のスライドはもちろん、匠の技のフィンガービッキングやマンドリンも冴えまくり♪♪~♪ また、歌いっぷりから滲んでくる絶妙のオトボケフィーリングもニクイばかりですよ。
なにしろ「Tamp 'Em Up Solid」からして、これは伝承歌とクレジットされながら、ジャズっぽいビートと神業アコースティックギターのコンビネーションが最高のロックフィーリングを醸し出していますし、古いゴスペル曲をメキシコ風味に焼き直した「おしゃべり屋」では、さらりとしたストリングスと濃厚なゴスペルコーラスを従えたライ・クーダーの歌とギターが、なんとも言えない解放感と哀愁を聞かせてくれます。
ちなみに「おしゃべり屋」は、後にリンダ・ロンシュタットも歌うことになるんですが、そのベースになったのは、明らかにライ・クーダーのバージョンでしょう。
そして有名黒人ブルースマンのブラインド・ウィリー・マクテルが晩年に放ったヒット曲「結婚したらお終いさ」を十八番のエレキスライドとヘヴィなビートで演じ切り、さらにゴスペルコーラスを強い印象で使うという禁断(?)の裏ワザは、このアルバムが紛れもないロックであることの証明です。
その意味で、これも伝承歌という「Jesus On The Mainline」を真っ当なゴスペルフォークに仕立上げ、救世軍みたいなホーンまで付け加えたのは流石というべきで、多重録音によるアコースティックスライドのアドリブはライ・クーダーの真髄! 実はこの時期のライ・クーダーの実演映像はブートですが、かなり出回っていて、この「Jesus On The Mainline」を強靭なアコースティックギターの弾き語りで披露するという名場面が堪能出来るんですが、それはもう、恐ろしくなるほどの神業と感動の嵐ですから、機会があれば、ぜひともご覧くださいませ。
またボビー・ウォーマックというよりもストーンズやフェィセズのバージョンで有名なR&B「It's All Over Now」を、浮きあがったようなレゲエフィーリングでやってしまう稚気も、今となっては、あながち的外れではないでしょう。実は当時、少なくとも我国ではレゲエは今ほど一般的ではなく、「レガエ」とか「レゲ」とか呼ばれていたんですよ。まあ、それは発音の問題からくる表記の違いと言えば、そのとおりなんですが、流石はライ・クーダーというか、実はここでの演奏のキモはロニー・バロンの楽しくローリングしたニューオリンズスタイルのR&Bピアノであって、つまりはニューオリンズからカリブ海を経てジャマイカあたりへと辿りつく旅の終わりと始まりが、ここにあるんじゃないでしょうか?
いゃ~、本当に和みますねぇ~~♪
告白すれば、サイケおやじは決してレゲエは好きではないのですが、これは別格!
ですから、ここまで来るとB面の最初で演じられるフォークブルース系のメドレー「Fool For A Cigarette / Feelin' Good」が、どんなにシンコペイトしたリズムとビートで処理されていても、それが当然の気分に染まってしまい、逆にライ・クーダーのマンドリンやギターに集中して聴けるんですよ。以外に力んだボーカルも良い感じ♪♪~♪
そして、これまたブートの映像では決定的な名演が残されているゴスペル&ドゥワップ調の「If Walls Could Talk」が、その完璧なエレキスライドの弾き語り共々、たまらない世界です。黒人コーラスならではの軽い高揚感とライ・クーダーのギターワークが絶妙のコール&レスポンスをやってしまうという、まさに出来過ぎのトラックですが、これはぜひとも前述の映像を公式発売し、世界中の皆様に楽しんでいただく必要があるでしょうね。
さらにバート・バカラックの作曲でお馴染みの「恋するメキシカン」なんですが、これは巷間言われているほどの純正メキシコ風味ではなく、あくまでもライ・クーダー流儀というか、実はテキサスや南部カリフォルニアあたりのローカルポップス仕立になっています。
実はこれまでも度々書いてきたことなんですが、サイケおやじは幸運にも、このアルバムが発売された時期の1974年6~9月にかけて渡米が叶い、その時はメキシコ近くまで行けたんですが、道中には、このアルバムに収められている類の音楽を幾らでも聴くことが出来ました。もちろんそれはラジオや街中のBGMではありましたが、それまでメキシコ音楽といえば、ハリウッド映画のサントラかハープ・アルパートあたりの所謂アメリアッチと思い込んでいた自分の常識が、そこで完全に覆されたのです。
というよりも、そこに流れていたのは業界ではテックスメックスと称される、アメリカ風メキシコ音楽だったらしく、おそらくはライ・クーダーにしても、この時点で演じていたのは、テックスメックスを自己のスタイルで解釈したものだったのかもしれません。なによりも本場メキシコのミュージシャンが、ほとんどセッションに関与していないのですから!?!
しかしそんなことに意気消沈するどころか、ライ・クーダーは全ての歌と演奏に自信を持っていたと思います。
なんとオーラスの「Ditty Wah Ditty」は、ジャズピアノでは歴史を作った巨匠のアール・ハインズと臆する事のない共演を果たし、絶句するほど素晴らしいギターを聞かせてくれるんですよっ!
いゃ~~、本当に感涙♪♪~♪
ということで、聴けば聴くほどに味わい深く、絶対に飽きのこない名盤だと思いますが、リアルタイムで発売された1974年の常識からすれば、これはロックやフォーク、あるいはウエストコーストサウンドからも激しく逸脱した異端のアルバムでした。
つまり内容は素晴らしいのに、決して一般大衆向けでないことが明らかですし、少なくとも日本では、どのように売っていいのか、レコード会社も困ったんじゃないでしょうか。なにしろシングルヒットしそうなキャッチーな曲もなく、いくらLPで音楽を楽しむのが普通になっていたとはいえ、極言すればシブイ!? または地味……。
残念ながらサイケおやじは、これが発売された当時の我国の状況や反応を知りません。理由は前述のとおり、渡米していたからなんですが、正直に言えば、ライ・クーダーの新譜が出たことさえ、知る由もありませんでした。つまり本国でもプロモーションなんて、ロクにやって貰えなかったんでしょうねぇ……。
しかし帰国して初めて聴いたこのアルバムに、サイケおやじが忽ち夢中になったことは言わずもがなでしょう。それは元来ライ・クーダーのファンであったことにもよりますが、アメリカで接することが出来たメキシコ風味の音楽と、ここでの歌と演奏が見事にリンクしていたという経験にも大きく関わっています。
あぁ、こんな素晴らしいアルバムに出会えた幸運に感謝するしかありませんねぇ。
自分はあまりにも運命論者かもしれませんが、世の中と人生には、決して避けて通れない幸不幸が絶対にありますよね。
もちろんそれは不幸の方が多いと思いますが、だからこそ数少ない幸せを大切な思い出にしなければなりません。
今日は最後に生意気な説教となり、申し訳ございませんが、サイケおやじはこのアルバムを聴く度に、そうした思いに駆られるのです。
そして爽やかな黄色いジャケットも含め、中身は完全に夏向きの1枚として、大推薦!
いよいよ世界へ旅立つライ・クーダーに追従するのも、また幸せじゃないでしょうか。
周りや流行に妥協しないで自分の好き嫌いをはっきり言うサイケおやじ先輩のブログ大好きです。
ライクーダーのアメリカ音楽を中心とした広い視線は素晴らしいですよね。
ライクーダーを介して未知の音楽に興味を持ったこともあり、デビッドリンドレーとふたりで来た時観に行きましたよ。
パリテキサスのサントラとか大好きです。
ありがとうございます!
まあ、自分は我儘なだけなんですよね。
「パリテキサス」は映画を観ていると、サントラ音源鑑賞も別格ですよね。映像をBGMにすることも可能というバチアタリです(笑)