最近、自分に珍しく正統派ジャズばっかり聴いています。
それはブログでも明らかですが、本日も――
■Howard McGhee (Blue Note)
ハワード・マギーはモダンジャズ創成期から頭角を現していた黒人トランペッターですが、そのスタイルには中間派っぽい味わいが感じられて、私は好きです。
もちろんビバップ特有のバリバリなツッコミ感覚に溢れた演奏も得意ですからねぇ~♪
しかし同時に新しい展開にも敏感だったようで、マイルス・デイビスとギル・エバンスあたりが共謀していた例の「クールの誕生」から西海岸派ジャズの様な演奏も、リアルタイムでやっていたようです。
さて、このアルバムは名門「ブルーノート」から出された10吋のLP盤で、内容は既にSP盤として発売されていた演奏を纏めたものですが、それは1948年というビバップ全盛時代と1950年という、クール~ウエストコーストという新しいモダンジャズの流れが勃興した2つ時期のセッションですから、ハワード・マギーの良い部分が存分に楽しめる1枚になっています。
まず1948年のセッションには、ハワード・マギー(tp,p)、ファッツ・ナバロ(tp)、アーニー・ヘンリー(as)、ミルト・ジャクソン(vib,p)、カーリー・ラッセル(b)、ケニー・クラーク(ds) という、当時バリバリのビバップ野郎が勢揃い! 録音は10月11日とされています。
そして1950年1月23日のセッションには、ハワード・マギー(tp)、J.J.ジョンソン(tb)、ブリュー・ムーア(ts)、ケニー・ドリュー(p)、カーリー・ラッセル(b)、マックス・ローチ(ds) という、これまた興味深いメンバーが集いました――
A-1 Meclendo (1950年1月23日録音 / SP:1574)
ラテンリズムのイントロから明るい楽しいテーマが始まり、アドリブ先発のブリュー・ムーアが流麗な白人スタイルを披露するあたりは、完全に西海岸派のノリになっていますが、サビとアドリブでバリバリのビバップ魂を発揮するハワード・マギーに拍手喝采!
続くケニー・ドリューとJ.J.ジョンソンも好演ですから、なかなか良く纏まっています。
A-2 Lo-falme (1950年1月23日録音 / SP:1574)
これも軽やかなモダンジャズで、ハワード・マギーはビバップ以前の花形トランペッターだったロイ・エルドリッチ直系のスタイルを聞かせてくれます。
またJ.J.ジョンソンはテクニックよりは歌心優先、ブリュー・ムーアの浮遊感あふれるテナーサックも、非常に魅力的です。
A-3 Fluid Drive (1950年1月23日録音 / SP:1573)
いきなり溌剌としたハワード・マギーのトランペットが鳴り響き、アップテンポの痛快な演奏が始ります。エッジの鋭いリズム隊も素晴らしく、柔らかくスイングしていくブリュー・ムーアを烈しく煽るところは本当にたまりません♪
もちろんハワード・マギーは強烈なツッコミ! ビリビリに吹きまくって場を熱くすれば、続くJ.J.ジョンソンが痛快なテクニックを披露しています。破綻寸前のケニー・ドリューも良いですねぇ~♪
A-4 Boperation (1948年1月23日録音 / SP:558 / LP:1532)
ちょっと重厚な演奏なんですが、面白いのはハワード・マギーとミルト・ジャクソンが専門ではないピアノ伴奏をやっていることでしょうか。それでもミディアム・テンポのグルーヴィなノリが、殺がれるはありません。
まずイントロからのピアノがミルト・ジャクソンです。続くテーマ部分は2人のトランペッターを中心に、かなりエキセントリックな倍テンポのフレーズも含んだスリル満点な吹奏で、アドリブパートは先発がファッツ・ナバロ、コーラスの途中からハワード・マギーに受け継がれます。
そしてアーニー・ヘンリーのアルトサックスを経てミルト・ジャクソンがヴァイブラフォンでアドリブを始めたところで、ハワード・マギーがピアノを交代していると終われますが、各人ともにスジを通した演奏が見事だと思います。
ちなみにファッツ・ナバロはクリフォード・ブラウンにも影響を与えた歌心優先派の名人! 残念ながら早世していますが、残された演奏は音質の悪いものを含めて絶大な価値があるとされています。
B-1 I'll Remember Aprill (1950年1月23日録音 / SP:1572)
お馴染みの定番曲が爽快なアップテンポで演じられますが、テーマ部分でメンバー各々の見せ場が用意され、ケニー・ドリューが素晴らしいアドリブに飛び込んでいくという、まさにモダンジャズの醍醐味が存分に楽しめる仕上がりになっています。
う~ん、これはケニー・ドリューのリーダーセッションか!?
実際、この日のセッションでは、4曲もオリジナルを提供しているのでした。
B-2 Fuguetta (1950年1月23日録音 / SP:1572)
そのケニー・ドリューが、またまた冴えたオリジナル曲を提供して大活躍した演奏です。リズム隊の弾みきった感じが最高ですし、ブレイクのピアノも鮮やかです。
またテーマ部分でのホーンアンサンブルも見事で、このあたりが既にビバップを超越した雰囲気になっています。
ハワード・マギーのアドリブも安定感がありますし、ブリュー・ムーアとJ.J.ジョンソンも実力を完全発揮!
B-3 Donnellon Square (1950年1月23日録音 / SP:1573)
これまたケニー・ドリューのオリジナルで、アドリブも冴えまくりです。続くブリュー・ムーアも最高で、それはスタン・ゲッツとウォーン・マーシュの良いとこ取りという感じでしょうか♪
肝心のハワード・マギーは中間派っぽいスタイルで押し通していますが、リズム隊のグルーヴが強烈なので、結果オーライだと思います。
B-4 The Skunk (1948年1月23日録音 / SP:558)
ハワード・マギーとファッツ・ナバロが共作した景気の良いビバップ剥き出しのブルース曲です。
まずアドリブ先発のアーニー・ヘンリーがチャーリー・パーカー直系の熱演で、なかなか素晴らしいですねぇ~♪
続く流麗なトランペットはファッツ・ナバロ、珍しいミルト・ジャクソンのビアノソロを挟んでアドリブを受け継ぐのが、ハワード・マギーでしょう。2人のトランペットは共に溌剌として歌心も大切にした名演になっています。
ちなみにここに収録されたのはSPマスターで、後に「ファッツ・ナバロ第2集(BN-1532)」として12吋LP化された時には別テイクに入れ替えされましたので、要注意です。
ということで、ちょいと時代遅れの感もありますが、ハワード・マギーの演奏はこのアルバム以降、ブルーノートでは12吋化されませんでしたので、貴重です。
しかも1950年のセッションでは、ブリュー・ムーアという素晴らしい白人テナーサックス奏者の快演が楽しめるのです。告白すれば、私はこのアルバムで虜になり、一時はコンプリートコレクションを目指したこともありました。もちろん挫折しましたが……。
肝心のハワード・マギーは、悪いクスリの影響もあって、度々演奏活動が中断されたりしましたが、その都度、復活盤を出しては注目され続けました。ただしそれは、マニア向けの世界という印象が強いと思われます。
なにしろブルーノートには、前述したファッツ・ナバロとの共演セッションも含めて、SP時代には傑作演奏が多く残れさていますし、10吋LP盤も2枚だされていますが、何故かハワード・マギー名義での12吋アルバム化が成されていません。
もしかしたらCDとして効率よく纏められているのかもしれませんが……。
こういうマニアックな世界も残されて嬉しいのが、アングラ音楽としてのジャズの楽しみだと思います。