■Gimme Shelter / Merry Calton (Ode)
1970年代初頭、ロックファンに一番有名だった女性黒人ソウルシンガーはメリー・クレイトンだったでしょう。
何故って?
それは彼女がストーンズの大名盤アルバム「レット・イット・ブリード」のA面ド頭曲「ギミー・シェルター」で、ミック・ジャガーと熱いデュエットを演じ、ほとんど主役を奪ってしまったからに他なりません。
そして忽ち注目を集めた彼女が、ついに単独自演バージョンを収めて1970年に発売したのが、本日ご紹介のリーダーアルバムでした。
A-1 Country Road
A-2 Tell All The People
A-3 Bridge Over Troubled Water / 明日に架ける橋
A-4 I've Got Life
A-5 Gimme Shelter
B-1 Here Come Those Heartaches Again
B-2 Forget It I Got It
B-3 You've Been Acting Strange
B-4 I Ain't Gonna Worry My Life Away
B-5 Good Girls
B-6 Glad Thdings
上記演目をご覧になれば、思わず瞠目するのが、例えばジェームス・テイラーの「Country Road」、ドアーズの「Tell All The People」、サイモンとガーファンクルの「明日に架ける橋」、スプーキー・トゥースの「Forget It I Got It」、ヴァン・モリソンの「Glad Thdings」、そして説明不要というストーンズの「Gimme Shelter」といった、当時バリバリのロックヒットがカパーされていることでしょう。
つまり明らかに白人層にアピールする新しいR&B、所謂ニューソウルを狙ったプロデュースがミエミエなわけですが、こういう動きは当時のアレサ・フランクリンやアイク&ティナ・ターナーが放っていたシングルヒットの例を述べるまでもなく、至極自然な傾向でしたし、古くはオーティス・レディングやスティーヴィー・ワンダー、さらにモータウン所属のグループや歌手にしても、常に堂々とやってきたことです。
しかしメリー・クレイトンにはミック・ジャガーとストーンズという、極言すれば黒人音楽を搾取して大成功した白人バンドの最高峰と共演して、圧倒してしまった実績が強い印象となっていますから、結果的に居直る必要もないという免罪符があったわけで、それは決してコジツケではないと思います。
そして確かに、このアルバムで聞かれる強い黒人ソウルフィーリングと流行ロックの融合は、全く見事過ぎる成果となって、それはスワンプロックへの道標でもあり、また我国のR&B歌謡にも鋭く転用されていく、実にたまらないサイケおやじ好みの仕上がりに♪♪~♪
ちなみにメリー・クレイトンはストーンズとの共演で有名になる以前、自己名義のシングル盤を数枚出したり、レイ・チャールズのバックコーラス隊として抜群の存在感を示すレイレッツでの活動もあったという、黒人音楽業界では知る人ぞ知る実力派でしたし、このアルバムセッションに参集したデヴィッド・T・ウォーカー(g)、ルイ・シェルトン(g)、デヴィット・コーエン(g)、ジョー・サンプル(p,org)、ビリー・プレストン(p,org)、ボブ・ウェスト(b)、ポール・ハンフリー(ds) 等々のメンツは当時のL.A.のスタジオでは腕利きの常連達とあって、全くスキの無い音作りの中にも自然体でリラックスしたグルーヴが満載♪♪~♪
まずA面冒頭の「Country Road」からして、ジェームス・テイラーが醸し出していたファンキーフォークな味わいを尚更に熱く煮詰めた歌と演奏が、良い感じ♪♪~♪ なによりもビシバシにシンコペイトしたリズム隊に完全融合していくメリー・クレイトンの熱唱! というよりも、歌がバックを引っ張れば、それをまたグイグイと煽っていくバックの演奏が強烈ですし、情熱のゴスペルコーラスや厚みのあるブラスアレンジも実に良いですねぇ~♪
まあ、このあたりは当時のレコーディングシステムを鑑みれば、必ずしも一発録りではないはずですが、その熱気の一体感はプロデュースを担当したルー・アドラーの思惑というか、これはあくまでも私の妄想ですが、もしかしたらスタジオの現場ではヘッドアレンジで、ワイワイと楽しんでやっていたのかもしれませんね。
それは同じレーベルで作られたキャロル・キングの初期のアルバムとか、もっと言えばユーミンのデビューアルバム「ひこうき雲」あたりにまでも受け継がれていく、素晴らしきナチュラルグルーヴってやつでしょうか。
実際、ここでは更にガンガンやってしまった「Tell All The People」、しなやかなゴスペルフィーリングがロック的に映える「明日に架ける橋」、脂っこく変質したミュージカル曲の「I've Got Life」あたりは、明らかに白人ロックをソウルジャズで解釈した名演ばかりで、その極みつきが「Gimme Shelter」なのは言わずもがな! あの不安感がいっぱいのというお馴染みのギターイントロから重心の低いリズム隊のグルーヴが炸裂し、オリジナルバージョン以上に熱気溢れるメリー・クレイトンの歌いっぷりは最高♪♪~♪ もちろん執拗に絡みまくりのニューソウルなギター、高揚感満点のコーラス、蠢くベースにドカドカビシバシのドラムスとくれば、血が騒がないほうが不自然というものです。
という感じで、A面は極めてロック色が強いR&Bの新展開が徹底的に楽しめたわけですが、B面では一転して正統派ソウルミュージックとゴスペルファンキーがテンコ盛り♪♪~♪
深いストリングの響きも印象的な「Here Come Those Heartaches Again」は、メリー・クレイトンが本領発揮というゴスペルソウルの決定版ですし、、じっくり構えた「I Ain't Gonna Worry My Life Away」では、彼女の正統派としての実力が遺憾なく発揮されています。もちろん両曲ともに、デヴィッド・T・ウォーカーのギターが味わい深いですよ♪♪~♪
また意外な選曲というか、前述したスプーキー・トゥースの「Forget It I Got It」では、シンプルなリズム隊のグルーヴを基調に直線的なロック感覚とR&B本来の真っ黒な味わいが幸せな結婚に至った名唱名演! このあたりは明らかに同時期のアレサ・フランクリンを意識したことがミエミエなことから、メリー・クレイトンの歌手としての力量が試されている側面もありますが、私は好きです。
それはビリー・プレストンの隠れ名曲「You've Been Acting Strange」にも受け継がれ、本人のアップルバージョンに敬意を表したようなアレンジと演奏が憎めません。う~ん、エリック・クラプトン風味のギターは誰でしょうねぇ~?
気になるオーラスに収められたヴァン・モリソンの「Glad Thdings」は、ワイワイガヤガヤのスタジオの雰囲気を活かしたところから、実に自然にゴスペルロックが歌い出される素晴らしさ♪♪~♪ アルバムの締め括りには、もう、これしかありませんですね。
ということで、ゴスペルソウルでもあり、スワンプロックでもあり、ニューソウルの先駆けでもある歌と演奏ばかりがギッシリと詰まったアルバムで、もちろんストーンズファンにはリアルタイムで御用達の1枚だったわけですが、反面、それほど聞かれなかったのが我国の実情でもありました。それは確か、日本盤のアルバムタイトルが「明日に架ける橋」とされていたことから、通常のR&B系カパー作品集という先入観が強められていた所為でしょうか……。
とにかくヒットしたという感じはしていません。
告白すれば、当時の私にしても、お金が無かった所為もありますが、完全にノーマーク状態だったのが本当のところです。それが後年、キャロル・キングの「ファンタジー」を聴いて目覚めたオード系ソウルジャズの関連盤として、このアルバムの存在を知り、必死で中古屋を漁ってゲットしたのが本日掲載のアメリカ盤というわけです。
もちろんメリー・クレイトンは当時からセッション歌手としても超売れっ子になっていて、夥しい有名ロックスタアのアルバムに参加クレジットがあるとおり、その活動は多岐に渡っていますが、やはりキャリアのハイライトは、このアルバムと続くもう1枚のオード盤「メリー・クレイトン」だと思います。
そしてそこで形作られたソウルファンキーなゴスペルロックこそが、時代の流行としてスワンプロックやニューソウルへと繋がったことは明白で、今だからこそ聴いてワクワクさせられる熱気が愛おしいのでした。
ただあのバージョンが採用されたのは、彼女をストーンズがリスペクトしてるんでしょうね。
コメント、感謝です。
ストーンズのバージョンにはプートですが、キースが歌ったテイクもあるんですよ、もちろんひとりで。
それが味わい深いと同時に、やはり物足りなさが……(苦笑)。
近年のライブステージはリサ・フィッシャーを前面に出して演じているのも、ムベなるかなでしょうね。
あと、一説によると、最初に起用が予定されていた女性シンガーは、デラニー&ポニーのポニー・リンだったと言われていますが、それも聴いてみたかったですよ。プート、出ないかなぁ~。