さてさて、今日も1日が終わります。
こんな風に過ぎていくのなら、と浅川マキが歌ったのは、遥か大昔の事のようです。
ということで、本日は地味なリーダーは如何にして……、というテーマです――
■Imformal Jazz / Elmo Hope (Prestieg)
現場ではリーダーが目立たない方が、良い仕事が出来る! そういう業界が、確かにあります。
ではジャズの世界では、どうでしょう?
リーダーは、けっこう目立つ人が多いようです。例えばアート・ブレイキーやマイルス・デイビス……等々、だから優秀でアクの強いメンツを集められるんでしょうが、これがレコード製作の現場となると、仕切りがレーベルのプロデューサーになりますから、時としてリーダーの存在があやふやになる事が、間々あるようです。
本日の1枚なんか、いや、「なんか」ってことはないですが、良いセッションにしようと集められたメンツが強力過ぎて、肝心のリーダーが一番地味という……?
録音は1956年5月7日、メンバーはドナルド・バード(tp) とハンク・モブレー(ts) がジャズ・メッセンジャーズから、ジョン・コルトレーン(ts) 、ポール・チェンバース(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds) がマイルス・デイビスのバンドから参加していますが、リーダーのエルモ・ホープをこれ以上の知名度というファンがいたら、贔屓の引き倒しでしょう。しかし――
A-1 Weeja
エルモ・ホープのオリジナル曲となっていますが、実はビバップではお約束のリフを用いたアップテンポの演奏です。
まず景気の良いフィリー・ジョーのドラムスに導かれたテーマ部分に、参加したスタア達のブレイクが織り込まれる演出は、既にして白熱の雰囲気で、実に良いです。
アドリブパートでは、まずドナルド・バードがソフトで流麗な歌心を披露♪ それでいて若さも感じさせるんですから、なかなかの名演だと思います。
そして続くハンク・モブレーとジョン・コルトレーンのテナー対決が、またまた興奮を煽ります! 幾分モコモコの音色で奮闘するハンク・モブレーに対し、ギスギスとした音色とフレーズで対抗するジョン・コルトレーンという構図は、如何にもハードバップ全盛期の輝きでしょう♪ 終盤では1コーラスずつのバトルになるんです♪
肝心のリーダー=エルモ・ホープはバド・パウエル系のビバップ丸出しスタイルでありながら、ハンク・ジョーンズの味わいも含んだ、しっとり派でしょうか? 地味ながら随所にキラリと輝くフレーズを聴かせてくれます。
またポール・チェンバースのベースがブンブン唸り、フィリー・ジョーのメリハリの効いたドラムスが本当に最高のリズム隊です。実際、マイルス・デイビスと一緒の時よりもノッているかもしれません。特にフィリー・ジョーに関しては代表的な快演だと思います。終盤のソロチェンジとドラムソロあたりは、たまりませんねっ♪
A-2 Polka Dots And Moonbeams
スローで演奏されるスタンダード曲ということで、エルモ・ホープの作るイントロが哀愁どっぷりです。そしてドナルド・バードの素直なテーマ吹奏! サビで優しさを響かせるハンク・モブレーも「味」の世界です。
さらにベースとドラムスがスローテンポながら、強いビート感を打ち出しているのも高得点! 全くダレませんからねぇ~♪
気になるアドリブパートでは、エルモ・ホープが先発で豊かな歌心を披露すれば、ジョン・コルトレーンはダーク音色でサブトーンまで駆使した出だしで勝負です。
そしてドナルド・バードが艶やかなバリエーションを聞かせれば、ハンク・モブレーは十八番のタメとモタレに加えて、倍テンポ気味の早いフレーズまでも織り込んだ職人技を披露するのです。
あぁ、何気なく凄いです。これがモダンジャズ黄金期の勢いなんでしょうねぇ~、和みます。
B-1 On It
B面はエルモ・ホープのオリジナル・ブルースでスタートしますが、相変わらずフィリー・ジョーが絶好調です。
アドリブ先発はドナルド・バードが快適に、そして溌剌と吹きまくりですが、やや型にはまった雰囲気でしょうか……。エルモ・ホープも、ちょっと大人しい感じですで???
しかしハンク・モブレーが登場するとそれが一変! 珍しいくらいに最初から突っこんでくるノリと独自のモタレの妙、さらにジョン・コルトレーンを意識したかのような擬似シーツ・オブ・サウンドまで聞かせます。
するとジョン・コルトレーンは、逆にタメを活かしたフレーズを出しつつ、後半ではハンク・モブレーとのバトルに持って行くという、最高の展開です。う~ん、なかなか楽しい、と言うよりも、2人とも不慣れな意地の張り合いがあるようで、ニンマリしつつもハラハラするのは、これも贔屓の引き倒しかもしれません……。
最後は強引に終わらせた雰囲気が……。
B-2 Avalon
ベニー・グッドマンでお馴染みのスタンダード曲が、アップテンポで豪快に演奏されています。
アドリブパートではエルモ・ホープが、ようやく本領発揮という感じでしょうか、バックでサクサクと気持ちが良いフィリー・ジョーのブラシを従えて快演です♪ ビバップスタイルですが、歌心もたっぷりだと思います。
そしてスルスルとすべりこんで来るハンク・モブレーが強烈に最高です! 一瞬の間でステックに持ち替えて激烈ビートを送り出すフィリー・ジョーも素晴らしく、ポール・チェンバースのベースは、一層ブンブンブン! あぁ、これがハードバップの醍醐味でしょうねぇ~♪♪♪
こうなるとドナルド・バードも黙っていられないところでしょう、これまた大ハッスルしすぎて、良く聴くと同じ様なフレーズばっかり吹いているのは、ご愛嬌♪
しかしジョン・コルトレーンは、まだまだ思い余って技足りず状態……。ツッコミと縺れ具合が散見されますが、それが逆に勢いへ繋がっているのは時代の流れかもしれません。
ということで、やはり結果的にリーダーよりも共演者が目立っていますが、エルモ・ホープだって悪いはずは無く、特にフィリー・ジョーとの相性は抜群ですから、それがセッションを成功に導いたとも解釈出来ます。
ちなみにこの2人は共演が多く、きっと仲が良かったか、ウマが合ったんでしょうねぇ。気になる皆様はディスコブラフィーを検索してみて下さいませ。
またエルモ・ホープというビアニストが地味という印象は免れませんが、私は、この人が入っているセッションが妙に気になってしまいます。なんか奥行きがある演奏になっているような……。で、気がつくと私のレコード棚には、この人のコーナーが出来ているほどです。まあ、それほどレコーディングが多いわけでは無いのですが♪
で、やっぱり地味な人なんですが、この人でなければ、当時これだけの若手精鋭を集めたセッションは無理だったのかもしれない……、と強引に結論づけています。例えばレッド・ガーランドやウィントン・ケリーあたりだったら、火傷しそうな熱さになって、挙句、空中分解が予測されませんか?